観光、医療、大学、行政、NPOにも広がる
最後に、いま新たに日本マーケティング学会を設立することの目的に少し触れて終わろう。第1に、探求と創発を前面に掲げている。知の探求において大事なことは、新しい価値の創造にあると考える。第2に、マーケティングの実践と理論の融合を図りたい。理論中心、学者中心の学会は多いが、実践と理論の融合を狙った、学者と実務家がバランスよく揃った学会は少ない。理論のない実践は支離滅裂な試行錯誤に陥る危険がある一方、実践に結び付かない理論は空論でしかない。巷間言われるところの日本ビジネスの限界は、それこそマーケティング実践と理論づくりの営為がうまく融合できなかったところにあるのではないかと思う人は少なくない。第3に、マーケティング概念の広がりの受け皿づくりにある。マーケティングとは、もっぱら製造業の販売活動と見なされてきた。現実に、マーケティングにおける創意工夫溢れる実践も、またそうした実践を支えた理論も、その活動を中心に発展したことは疑いない。だが現在では、先に述べた「マーケティングの精神」は、サービス分野にも大きく広がっている。レストランやホテルや小売りにおける顧客対応、観光における観光客対応、医療の患者対応、大学における受験生や在校生対応、あるいは行政やNPOにおける受益者対応等々において、マーケティングあるいはそれと類似した活動は目立つ。そうした異分野に広がったマーケティングの実践と理論の発展を互いに知ることで、それぞれの分野での一層の発展が期待される。
それ以外に課題はあるが、まずは本学会は、「実践と理論のあいだ」、そして「マーケティングが関わる異分野のあいだ」での、深い深度での交流を目指したい。読者諸氏の共感を得ることを願っている。