公正な競争が阻害された可能性はある

報道で毅然きぜんとした姿勢を見せるNHKだが、しかしこれまでの「紅白」におけるジャニーズとの不自然な関係はいまだに検証されていない。9月11日の「クローズアップ現代」では、2004年当時に「紅白」などを統括していた歌謡・演芸番組部長への取材もしているが、それは性加害についての認識を確認することにとどまっている。2010年代におけるジャニーズと「紅白」の蜜月の背景に何があったのかは、いまだにわからない。

「紅白」が不自然にジャニーズ依存を続けていたことは、視聴者からの受信料で運営される公共放送である以上、しっかりとしたさらなる検証が必要だろう。ヒットの物差しとという強い象徴性を維持している番組であるがゆえに、エンタテインメント全体への影響力も強いからだ。

実際、ポピュラー音楽の公正な競争が阻害された可能性もある。DA PUMPやw-inds.、JO1、BE:FIRSTなど競合グループをちゃんと出演させてきた実績もあるが、数でいえばジャニーズ枠の増加によって他のアーティストのチャンスが失われたのは間違いない。

NHKの中心は報道とはいえ、「紅白」も看板番組だ。そして、結局この2010年代の「紅白」とジャニーズの“蜜月”が棚上げにされたまま、旧ジャニーズ勢がいない昨年の大晦日は終わった。

NHKが掲げる「紅白」出演者の選考基準

NHKは「紅白」出演者の選考基準として「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」の3つをかねて提示している。「今年の活躍」はCD売り上げやストリーミングの再生回数等、「世論の支持」はNHKが独自に行うアンケート調査に基づいており、これらのデータを参考にして“総合的に判断”しているという。しかしアンケート調査の結果は公表されておらず、制作側による「企画・演出」はどうにでも解釈できる。したがって、この基準は不透明だ。

たとえば、旧ジャニーズ勢だけでなく、例年「紅白」では演歌勢も一定の枠を占めている。「今年の活躍」「世論の支持」という点では疑問符がつくが、一昨年も7組が出場していた。そこにも旧ジャニーズとは異なる業界政治がかいま見える。今回でいえば三山ひろしはけん玉で、水森かおりはドミノで賑やかし役を務めており、NHKとしてはそれらは「番組の企画・演出」で必要だったということなのだろう。