音楽メディアの移行期に生じた混乱
この2010年代とは、音楽メディアに混乱が生じた時代でもあった。日本では2000年代後半に着うたや着うたフルといった独自の携帯電話向け音楽配信サービスが浸透しつつあったが、スマートフォンの普及によって一気に衰退した。
それもあって、日本の音楽業界はCD販売への依存を続けた。AKB48を中心に握手券をつけるなどの複数枚購入を目的とする特典商法が定着し、ジャニーズは配信に乗り出さないことでCDの売り上げに固執した。CDランキングの集計方法に変更を加えなかったオリコンランキングでは、ジャニーズとAKB48グループばかりが上位を占めて混乱状況に拍車をかけた。
そのため、2005年から2015年頃までは極めてヒットが見えにくい時期でもあった。ストリーミングサービスが日本に登場するのは2015年頃からだが、売り上げのシェアでCDを上回るのは昨年(2023年)か今年と予測される。グローバルでは2015年以降に音楽産業は回復基調に入るが、日本は昨年やっとその兆しが顕れた程度だ。音楽メディアの過渡期が、日本ではいまも続いている状況と言える。
ジャニーズはこうした混乱期・過渡期に「紅白」との関係を深めていった。いまだに一部を除けばストリーミングには乗り出しておらず、YouTubeでのミュージックビデオ公開も本格的に始めたのは2019年からだ。
つまり構図としては、ジャニーズは従来のメディアであるCDとテレビ(放送)を中心とするビジネスモデルから離れられず、「紅白」とレコード会社も低落傾向に歯止めをかけるべくジャニーズにすがった。
インターネット回線に繋がったテレビが全世帯の半分を超え、ストリーミングがかなり定着期に入った現在から振り返れば、2010年代の「紅白」とは古い芸能プロダクションと古いメディアとの“未来なき蜜月時代”だったといえるだろう。
が、その蜜月が昨年いきなり終わった。しかもかなりのハードランディングで。
性加害問題を積極的に報じてきたNHK
報道においては、NHKはジャニーズの不祥事をもっとも積極的だったテレビ局だ。自局でレギュラー番組を持つタレントの強制わいせつ事件(2018年)も、公正取引委員会による注意(2019年)も、最初に報じたのはNHKだった。今回の性加害問題でも、テレビではTBSとともに相対的に早い段階から報じ、10月2日のジャニーズ事務所の会見後には「NG記者リスト」もスクープした。その翌週には、局内における過去の性加害もみずから報じた。
これらが可能だったのは、もともと報道を中心とする局であるのはもちろんのこと、制作部門と報道部門が別採用であり、両者の人的交流が民放局よりも少ないことがその背景にある。他局のように編成局が報道局に口を出したり、報道局が編成局を忖度したりするようなことが生じにくい組織になっているからだ。