サボりや遅刻でも指を失う

ささいなことで指詰めさせられた事件もあった。

山口組系の会長が、上部組織の事務所の掃除や電話番など、いわゆる「事務所当番」を組員の男性に言いつけていたにもかかわらず、男性がサボったことに激怒。男性にノミとハンマーを手渡して自ら左手小指を切断させたとして2008年5月、強要容疑で兵庫県警に逮捕された。

遅刻で指詰めを強要されたケースもある。山口組系組長は、組員だった男性に大阪府内のスナックに車で迎えに来るよう命じていたが、到着が遅れたことに立腹し、事務所で「ケジメとして指を落として辞めろ」と脅して左手小指を切断させた。この組長は2013年2月、強要容疑で逮捕されている。

数年前に引退した関西地方で活動していた指定暴力団元幹部「昔は、組を抜けるとなると指詰めは当然のように行われていた。ただ、その後のカタギとしての生活に大きな支障をきたすと認められた場合は、手の指を落とすことは免除された。その代わりに、右足の親指を切断していたという話を聞いたことがある。」

指詰め事件が増加しているワケ

1995年9月、東京の暴力団組長らが、所属していた上部組織から身代金として5000万円をだまし取ろうと自作自演の誘拐事件を計画。共犯者の組員に「組長が誘拐された」と上部組織の本部に電話させて現金を用意させようとした。

尾島正洋『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)

事件を起こすにあたって、組長は自らの小指を切断していた。切断された指を上部組織に示して、誘拐されたと信用させることが目的だったと見られる。実際に拉致されたと判断した警視庁が捜査を始めたため組長らは計画を断念して逃走していた。誘拐偽装の際に、事情を知らない女性を監禁していたことも判明し、組長らは2カ月後に監禁致傷容疑で逮捕された。

1995年はすでにバブルが崩壊し、暴力団対策法が施行されたばかりで、シノギに対する規制が強化された時期だ。自らの指を詰めることでカネを得ようとした苦肉の策の誘拐偽装だった。

捜査幹部OB「そもそもヤクザは何かしらの被害に遭っても警察には届け出ないものだ。しかし、暴力団対策法が施行されてしばらくすると、『ヤクザを辞めたい』という組員が多くなってきた。抜け出す際に指詰めなどの制裁にあう恐れがあったため、警察に相談に駆け込むケースも増えた。暴対法施行後は、指詰めを事件として摘発することが結構あった。

さらに2011年までに全国で整備された暴力団排除条例の施行の効果が大きく影響している。暴対法のうえに暴力団排除条例で、収入を確保できなくなってきただけでない。スマートフォンを持てない、銀行口座を開設できないなど経済活動から排除されたため、ヤクザはさらに苦しくなった。それで『辞めたい』となって、指詰めなどの事件の摘発が増えているのだろう。」

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