なぜヤクザは金遣いが荒いのか。暴力団の取材経験が豊富な溝口敦さんと鈴木智彦さんは「ヤクザの評判は口コミで決まる。だから派手な金遣いをすることで自分たちの力を見せつけようとする。宣伝費のようなものだ」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、溝口敦、鈴木智彦『職業としてのヤクザ』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

札束を指に挟んで提示する男性の手元
写真=iStock.com/Hanasaki
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床屋に100万円のチップを払った稲川会の元会長

【溝口】一種の顕示的消費というのがヤクザにはあって、例えば、クラブに行って、大きな金額をきれいに払えば、かっこいいヤクザだと見られてうれしいと。そういう意味で、ヤクザの場合は、デモンストレーションとしての金払いという側面がある。

【鈴木】博奕場では、金離れがよく、払いが綺麗だと男を上げました。そこでの所作が器量の証明になった。その名残だと思います。人気商売なので、裏の仕事は人気のある組織に集中する。こうした金は宣伝費のようなものです。

【溝口】例えば、弘道会若頭の野内正博のエピソードとして、銀座のクラブでたった10分座って飲んで、金額が20万円だとしたら30万円多く払って、店の人が「親分、こんなにすみません」と礼を言ったら、「いや、わしらの仕事は金を使うことぐらいしかありません」と言う。今どき、そんな金遣いができるヤクザは日本全国に5人といないと思いますが。

【鈴木】これも一種の自卑です。我々のようなヤクザは、金払いの良さで世間に貢献するしかないという、ねじれた美学があります。

【溝口】稲川会会長だった稲川聖城が、散髪をやってもらって、チップが100万円だったと。みんな驚いて、何で床屋に100万円やるんだって聞いたら、「いや、どうせやるなら目立ったほうがいいから」と言っていたと。これこそが顕示的消費です。