【溝口】ある程度馬力がないと防弾仕様は無理なんですよね。重量に耐えられないから。そういう実用面も確かにある。一方で伝統的なヤクザルックにも実用面がある。暴力団は暴力のプロだからといって、しょっちゅう暴力を振るっているわけではありません。

むしろ暴力のプロだからこそ、暴力の費用を熟知し、極力その発動を控えようとします。そのため彼らは、暴力を振るうかもしれないという雰囲気作りを行う。ヤクザルックというのはそのためにあり、相手のほうが自分を恐れて避けるように仕向けることで、衝突と暴力の費用を節約しているとも言えます。

刺青も同様で、見た者に恐怖を与える威嚇力や、仲間内で幅が利く、大きな顔ができる、といった意味合いがある。

「金漬けにして、うまくしますさかい」

【鈴木】スター的存在のネーム・バリューがあれば、くだらない見栄を張る必要はありません。ヤクザの見栄は、本来、切るものです。ヤクザはメンツで生きているから、食事を共にした際、誰が払うかで揉めたりする。日本的な面倒くささの極北です。

金を払った側がかっこつけたことになるので、無理に払うと顔を潰す。喫茶店程度ならどちらが支払ってもいいでしょうが、それなりの金額になると、支払う意思表示をしてから勘定を払ったほうがトラブルになりません。

ヤクザの選ぶ店は特別待遇をしてくれるので、べらぼうに勘定が高い。和食で一人7万円なんてすぐ超えます。大してうまくはありません。店にすれば上客です。

【溝口】相手がヤクザでもカタギでも、今回はおれが奢っておいたほうが得というような人間はいるわけです。そのほうが長い目で見れば、自分にとってプラスになるお客さん、相手というのがいるわけでしょう。そういう者に払われたら、それは迷惑だということになる。

【鈴木】実際、金は力です。金で負い目を持つと、ヤクザだって頭が上がりません。

【溝口】会食に関して僕の個人的な体験を言うと、原稿をめぐって山健組とトラブルを起こしたときに、山健組のある幹部がトラブル解決の担当になった。新宿のホテルに呼び出されて、「この部分を直せ」と言われました。僕は断わった。

そうしたら、その組長は山健組の若頭に電話して、「今、溝口に会うてます、溝口は直さないと言ってます、私がこいつに飲ませ、食わせ、金漬けにして、うまくしますさかい、それでええでっしゃろ」と、僕に聞こえよがしに電話しました。