30万円のセイコーなら3万円のロレックスを買う

【鈴木】実際、熱海(稲川会発祥の地)で稲川会を悪く言う人はいなかった。金の切り方が半端ではない。土地に根付いているから、地元は大事にします。

【溝口】そうです。裏でみかじめ料をたっぷりとっているくせに、使うときにはそういうふうに使う(笑)。一昔前までは一晩50万円は当たり前として、月20日で計算するなら、飲み代だけで月1000万円。それが当たり前の世界でした。

【鈴木】ヤクザに仕事を頼みたい人は、インターネットで検索しても情報がありません。だから何で判断するかというと、口コミなんです。そうじゃなければ、可視化された実力、事務所が立派か、すごい車に乗っているかどうか、ぱりっとした格好をしているかどうか、いい時計をしてるかどうかというところをやっぱり見る。

だから、よくヤクザが言うのは、30万円のセイコーの時計をするくらいなら、3万円のロレックスのコピーのほうがいいと。これこそヤクザ的発想です。

腕時計で時間を確認する男性
写真=iStock.com/Georgijevic
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【溝口】そうですね。高そうに見えるというのが大事なんだと。

【鈴木】昔はよく、名簿を見て、親分と若頭、本部長らの住所、電話番号をチェックしました。全部同じなら、事務所がひとつしかないんだな、ここは規模が小さいんだなと判断する。

だから、たとえば宅見勝(五代目山口組若頭)時代の宅見組が大阪ミナミのいいところにどーんと事務所を建てたのは、やっぱり、ヤクザに仕事を頼みたい人へのアピールでしょう。繁華街の、見るからに地価が高いところに事務所があるというのが一番の宣伝になる。

最近のヤクザが国産のワンボックスカーに乗る理由

【溝口】しかし、その顕示的消費が最近は薄れてきている。昔はヤクザの車と言えばベンツだったのが、最近はセダン型じゃないワンボックスが増えています。

【鈴木】トップの親分たちが居住性を優先した国産のワンボックスに乗り出し、トヨタなどは本当に迷惑していると聞きます。セルシオが出たあたりから、メルセデスを始めとする外国車信仰はずいぶん薄くなりました。高価な車はいくらもありますが、もう安っぽい誇示で名前を売る必要がない。

それにヤクザっぽい車は狙われやすいんです。防弾車にする際も、ワンボックスのほうが鉄板を入れやすい。重量的な問題があり、屋根が潰れてしまうので、天井には防御用の鉄板を仕込めないのですが、セダンだと上に乗られて撃たれる可能性もあります。