問題の背後にある「社員と派遣の待遇格差」

基本的に日本の社員記者は恵まれた環境にいる。私も仕事に恵まれているといえば、恵まれているが基本的に独立した後に待っているのは成果を出せなければゼロ、成果を出して初めて報酬をいただける世界だ。

多くの社員記者は愚痴が先に出てくるが、成果が確約されていない領域にチャレンジできる権利は最初から認められているし失敗しても食いっぱぐれることはない。件の派遣職員がどのような境遇があったか。ニュースに携わっている記者と同等に必要な社内教育を受けていたのか。あるいは受けられるような状況にあったのか。

報道の世界にとって取材源の秘匿はもっとも重要な原則だが、それを取材に出ることもないテロップをつける派遣職員にまで無条件に理解させることができるのか。やはり難しいだろうとしか答えられない。

報道は専門職であり、通常の番組作りとは異なる原則を徹底しなければ事故が起こる。一度起こした事故は信頼に跳ね返ってくる。人件費というコストはそのための必要経費だ。責任の重さを理解し、職務に携わるヒトへの投資は欠かせない。相応の報酬とともに責任を負わせた上で、責任の重さを自覚させるのが筋だが、それを怠れば大きなツケを支払う。

不祥事はなくならないが、やるべきことはある

NHKの報道現場も離職者が相次いでいるという報道も続き、取材経費の不正請求も公表された。職場環境として、ヒトへの投資よりも先に対応しなければいけないことが多いのだろうが問題は深刻だ。

石戸諭『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』(毎日新聞出版)

雇用形態が変われば、今回のようなメモ流出は防げるのだろうか?

悪意を持って問題を起こそうと決めた人物がいれば、その行動を100%防ぐのはどんな職場でも困難だ。新聞記者でも流出に手を染める記者が今後出てこないと断言することはできない。だが、そうした人物にジャーナリズムの倫理に則った説明と責任を負わせることはできる。取材源の秘匿を犯したメモ流出と天秤になるのは、懲戒処分と同時に「ジャーナリズムの基本原則」を踏みにじった記者という烙印らくいんだ。

いまのメディア業界にとって、NHKの流出騒動はひとごとではないはずだ。多くのスタッフが関わるほど、職業倫理の共有は難しくなる。倫理で縛れないのならば、非効率な方法に振るしかない。だが、それは経営事情が苦しい中で現場に負荷をかけることになる。そんな中であってもヒトへの投資を怠ってはいけないように思える。それがNHKの失態から得られる最高の教訓だ。

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