「過疎地での移動を便利にするため」という主張は詭弁

過疎地の交通問題を解決するためにライドシェアが必要だという主張もあるが、それは詭弁きべんだと、髙城さんは言う。

「お客さんがいないところでライドシェアをやっても、そもそも人がいませんから、結局都市部に集中してくるわけです。これは、10年以上ライドシェアを導入してきたアメリカで証明済みです。地方在住者は地元では稼ぎが悪いからと、長時間かけて大都市や空港に行って仕事をします。アメリカのライドシェア2大企業(UberとLyft)の輸送回数の70%が、たった9つの都市圏に集中していることからその実態がよくわかります。

日本でも確実に同じことが起こるだけでしょう。逆に、今の京都や鎌倉のような交通渋滞の酷い観光地で、ライドシェアを導入し、自家用車で来てくれと言ったら、交通渋滞がさらに酷くなるのは目に見えています。日本のバス・タクシー会社は、人口の多い地域で収益を出しつつ、過疎の路線を維持してきたわけですが、ライドシェアが合法化されれば廃業・倒産が相次ぐでしょう。

安全にコストをかけているバスやタクシーと、何でもありの素人のライドシェアでは公平な競争になりませんから、お金がある都市部にますます車が集まり、過当競争と交通渋滞が激化する一方、過疎地はバスもタクシーもライドシェアもない交通空白地帯が増加すると思われます」

ライドシェア慎重論があるのに、なぜ導入を急ぐのか

世界中で禁止・規制されているライドシェアに、日本は後乗りで時代に逆行する形で突き進もうとしている。国土交通省はライドシェアを容認しておらず、自民党タクシー・ハイヤー議員連盟(会長・渡辺博道元復興相)も慎重論を唱えているにもかかわらず、だ。

自交総連副中央執行委員長の德永昌司さん(提供=德永さん)

なぜなのか。誰が何のためにライドシェアを導入したいのか。この問いについて、髙城氏はこんな指摘をする。

「ライドシェアを導入して誰が得するかということです。そこにはやはり利権があると思います。例えば、ソフトバンクはソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて、中国のDiDiに約120億ドル、東南アジアのGrabに約30億ドル、インドのOLAに約20億ドルなど、世界のライドシェア運営会社に巨額の投資を行っています。

孫正義代表は2018年3月期の決算説明会において『ライドシェア業界全体で、われわれが筆頭株主である』と発言し、同年7月の講演で『ライドシェアを法律で禁じている。こんなばかな国はない』などと政府を批判していました。また、楽天は2015年3月、米ライドシェアのLyftに3億ドルを出資。以降、三木谷浩史社長は『新経済連盟』の代表として、政府に何度もライドシェア解禁を要求し、Lyft社が2019年にナスダック上場したときには楽天が13%の株を保有していたこともわかっています」