言い換えれば、EVは資産性がまだ危うい存在である。そうした危ういEVに、資産防衛の観点から乗用車を購入しようとするトルコのカーユーザーが手を出すとは考えにくい。したがって、高所得者層へのEV普及が一巡すれば、国民の換物需要に応えることができない以上、トルコのEV市場の拡大にはおのずと強いブレーキがかかるはずだ。

脱炭素化よりも資産防衛のほうが重要

充電ポイントの整備も遅れている。日刊紙デイリー・サバが9月19日付で報じたところによると、トルコの充電ポイントは8800基程度にとどまっているようだ。またその多くは最大都市イスタンブールや首都アンカラ、地中海の景勝地アンタルヤに集中している。

なお経済産業省のまとめによると、2022年時点で、日本の充電ポイントは2.9万基。各国では、中国が176万基、アメリカが12.8万基、ドイツが7.7万基、イギリスが5.1万基、フランスが8.4万基、オランダが12.4万基などとなっている。ヒト・モノ・カネの制約が強い新興国であるトルコで、充電ポイントが先進国並みのテンポで整備が進むとは、まず考えにくい。充電ポイントの整備はあくまで緩やかなテンポで進むはずだ。

そして、充電ポイントの整備が緩やかに進むならば、EV市場の発展にも時間がかかる。一方で、トルコのインフレは安定が見込みがたく、またこれまでのハイパーインフレの記憶が刻み込まれていることもあり、国民の換物需要には根強いものがある。トルコ国民の立場なら、換物需要に適うことがないEVを積極的に購入する理由などない。

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つまるところ、大多数のトルコ国民にとって、従来型のガソリン車やディーゼル車、そしてHVの方が、EVよりも勝手の良い自動車であり続けるはずだ。ほとんどのトルコ国民にとっては、脱炭素化よりも資産防衛のほうが重要な関心事だろう。確かにトルコの足元のEV市場は活況だが、それは普及の初期段階の現象に過ぎないのである。

このように整理すると、2032年までにEVが新車の3割に達するという英国の調査会社の予測は、かなり楽観的な見方ではないかという結論に達する。EVの普及が先行するヨーロッパでさえ、EVが占める割合は新車の15%程度で頭打ちとなりつつある。その倍の水準を今後10年弱でトルコが目指せるかというと、やはり難しいといえよう。