世界各国で医療用に使用され、日本でも導入される見込み
この法案は厳罰化だけではなく、医療大麻の一部合法化も盛り込まれている。この法案が通れば、大麻の主成分のCBDから製造された難治性てんかん治療薬「エピディオレックス」の国内での使用が可能になる。
エピディオレックスは米国食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)などによって治療効果を認められ、世界30カ国以上で使用されており、厚労省は国内のてんかん患者やその家族、支援団体などから承認の要請を受けていたようだ。
また、医療大麻の一部合法化についても問題があり、それは厚労省がエピディオレックスの使用しか認めようとしていないことだ。医療大麻はてんかんの他にもがん、エイズ、多発性硬化症、緑内障、関節炎などさまざまな病気の治療に有効とされ、世界で医療大麻を合法化している国は50カ国以上にのぼっている。
厚労省は「CBDは良いが、THCは悪い」というように単純に分けて、THCを厳しく規制しようとしているようだが、それは合理的とは言えない。なぜならTHCにも大きな治療効果があり、THCを使用して製造された多発性硬化症の治療薬「サティベックス」や抗がん剤治療に伴う悪心の治療薬「マリノール」は欧米やアジア諸国など多くの国で使用されているからである。
精神活性作用があるというだけでTHCを悪者扱いして禁止するのではなく、その特性やメリットをよく踏まえた上で有効に活用すれば、さまざまな病気の治療に役立てることができるのではないか。ちなみに2019年に医療大麻を合法化した韓国ではエピディオレックスだけでなく、サティベックスやマリノールなどの国内での使用を認めている。
いままで述べてきたように、この改正案は大麻の使用罪と医療大麻の一部合法化を進めるものとなっている。だが、本来であれば医療大麻の合法化と嗜好用大麻の厳罰化はまったく別の問題だ。この二つを同時に進める改正案の議論には注意が必要だろう。
「ダメ。ゼッタイ。」の弊害
ここで改めて日本の薬物対策の問題点について考えてみたいと思う。
厚労省は長い間、「ダメ。ゼッタイ。」に象徴される予防啓発と厳罰主義に基づく乱用防止対策を行ってきた。そのなかで、大麻や覚醒剤を一緒くたにして、「薬物は危険で、厳しく禁止されている。ゼッタイに手を出してはいけない」という強いメッセージを発信してきた。
この対策は日本人が元々持っている法律や社会のルールを守ろうとする遵法精神の強さとも相まって一定の効果はあった。どこの国にも違法な薬物に手を出してしまう人は一定の割合で存在するが、日本はその割合が他国に比べて非常に少ない。
たとえば、国立精神・神経医療研究センターの発表によると、青少年における違法薬物の生涯経験率(大麻)は、米国が34.0%、EUが16.5%であるのに対し、日本は0.3%と圧倒的に低くなっている。