「親は元気でやっている」と思い込んでいる
そのうえ、働き盛りの子どもは忙しく、長時間労働で有給休暇消化もままなりません。結婚していれば、家のローン、子どもの受験、さまざまなことに忙しくて親のことを顧みている暇はないようです。
親のほうも子が大変なことは重々承知していて、子どもに対して遠慮して困っていることを言わないようになります。
本当は離れていても密にコミュニケーションをとっていればいいのですが、子どものほうは「親は元気でやっている」と思い込むことで日々をやりくりしています。
そこに親が突然倒れたと連絡が来るのです。
子どもはひさしぶりに帰って親の老いと実家の乱雑さに気がついて愕然とする、という事態はよくあることです。
遠距離に住んでも、いまは高齢者もスマホを使って子とやり取りをすることも多く、孫の写真や動画を見ることができます。
しかし、孫の入学式やピアノ発表会の写真を見るだけと実際に一緒に同じ時間を過ごすこととは全然違います。そのために、心理的距離が開いていきます。
身体の健康だけではなく精神的なタフさも必要
東京都内の古い団地に住むM子さんは、認知症の診断は受けていますが、それほど進行はしていません。外出は膝が痛いのでデイケアへ行くくらいでした。
家の中では自立して過ごしていますが、買い物は不便です。宅配も頼みますが、衣服やもろもろ自分で買いたいときもあります。そんなときは、神奈川に住む息子さんが車で来て、買い物に連れて行ってくれるそうです。
そんな話を聞いて私は「いい息子さんですね」と言いました。ところが、M子さんは「でもね。買い物の荷物を玄関に置いて、忙しいからってお茶も飲まないで帰っちゃうんですよ」と呆れ顔で笑いながら話しました。
M子さんは笑っていましたが、そのさびしさはこちらにも伝わってきました。M子さんは、ひとりでお茶を飲み、たぶん気分を立て直してから、買ってきたものの片づけをするのでしょう。
ほかのひとり暮らしの方からも「子どもや孫が盆や正月には来てくれるけど、帰るとさびしくて一週間ぐらいは落ち込んでしまって」という話を聞きます。
高齢者のひとり暮らしが増えることを考えると、私たちは身体の健康だけではなく精神的にもタフでなくてはいけないのだと思ってしまいます。
ひとりでも楽しめるスキル、家族だけに精神的に依存しないスキル、他者と交流するスキルも必要なことだと考えます。