本人が本人じゃなくなる病気

ある日、家に謎の荷物が届いた。緋山さんが箱を開けると、「豊胸サプリメント」と書かれていた。

「何これ?」と妻にたずねるも、「分からない」と言う。仕方なく緋山さんは、妻のスマホを見せてもらうことにした。メールやらLINEやらのやりとりを隈なくチェックしていくと、怪しげな通販の注文履歴を発見。途端に緋山さんは烈火の如く怒り、妻を怒鳴りつけてしまう。

「『要支援レベルでこれ? 本当に本人が本人じゃなくなる病気なんだな……』と思いました。認知症の本などで、『本人のやる事には必ず理由がある!』『怒ったりはせず、認めてあげましょう!』とか書かれていますが、そうは言っても万が一警察沙汰になったり、私のように金銭的な実害を被ったら、そんな悠長には構えていられません……。本当に情けなくて悲しくてつらくて、怒り狂ってしまいました」

「豊胸サプリメント」を解約しようと思った緋山さんは、まず商品や案内書、カタログやホームページを見たが、解約方法がどこにも見当たらない。

「どうも悪質系の零細企業のようで、会社名を検索して規約みたいなのを探し出してようやく解約方法にたどり着きましたが、『解約はメールや電話では受け付けません。解約専用のLINEに登録してください』『1回目の発送から7日後から、次の発送の15日前までしか受け付けません』とあり、渋々『豊胸サプリメント』の解約専用LINE登録を行いました」

他にも、この時期は葉酸サプリや健康食品、栄養ドリンクなど、次々と妻が定期購入した商品が届いた。

写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです

「大手の定期購入は電話一本で止められるので簡単でした。本当はスマホを監視するような真似はしたくなかったのですが、豊胸サプリ以降はチェックをさせてもらうようになっていきました。今考えると、認知症がありつつ通販サイトで買い物をできる能力が残っているというのが一番タチが悪いですね……」

2020年の夏は、余計なサブスク登録や怪しい通販の購入などが明るみになっただけでなく、緋山さんが気付いたときには計120万円のキャッシングをしていたことが発覚。いずれも妻にたずねると、「覚えていない」「分からない」と答え、その度に緋山さんは怒り狂ってしまう。

「自宅に郵送で支払い延滞の連絡が来て、初めの借金が発覚しました。それまで私が生活費とお小遣いとして妻に渡していた金額が足りていなかったようでカード払いができず、キャッシングをしていました。足りないなら相談してくれれば良かったのですが、その判断も難しかったのかもしれません。他にもそういったことがないか問い詰めましたが、病気のため把握できていませんでした」

妻が持っていたカードや銀行口座をチェックすると、数十万単位のキャッシング履歴がどんどん出てきた。緋山さんは自分の貯金やその夏のボーナスを使ってすぐに返済した。(以下、後編へ続く)

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