客観的な変化には使われる

これらを見ると実態として、期待されることに使われることが多いというのは確かに言えそうです。ただそれは、そもそも望まない出来事について「前の時からどれくらいたったか」ということを殊更に意識して表現したくなることが少ないからではないかとも感じられます。

毎日新聞校閲センター『校閲記者も迷う日本語表現』(毎日新聞出版)

「好ましくないことにも使う」という明鏡国語辞典2版が二つ例示するうちの一つ、「九年ぶりの大地震」も、あり得ない表現とは思いませんが、あえて実際にこういう使い方がされることはあまりないのではないかと感じます。一方で、もう一つの用例、「三年ぶりの低成長」のような言い方はよく見かけます。

1日ごとに集計される感染者数もそうですが、企業の決算や経済指標など、継続的にデータが示されるようなものごとの場合、「推移」に注目するのは自然なことです。そのため「3四半期ぶりの営業赤字(黒字)」「感染者数が3日ぶりに増加(減少)」というのは、「待ち望む」「期待する」ような感情を抜きにして、いずれも変化を客観的に示す表現として成り立つと考えられます。

不自然でないか意識したい

また「ぶり」と同じように端的に経過した時間を示せる別の表現は、なかなか思いつきません。つまり、「ぶり」は期待感を込めて使うことも多いが、そういった感情を抜きにして使うこともできる、と言うべきなのではないでしょうか。前述したように多くの辞書が「感情」に明確に触れていないのも、いいことばかりに使うとは言い切れないから、と受け取れます。

報道の文章に慣れている校閲記者からすると、今回の例文の「ぶり」に半数の人が違和感ありとした結果は意外でした。しかし、一般に「ぶり」を使う場面で期待感が含まれることが多いということについては、なるほどと感じる部分があります。

今回の例文のような場合は不適切とまでは言えないと考えますが、気にする人が多いということからしても、「ぶり」を使う際は、不自然な感じが強い使い方になっていないか意識したほうがよいと思われます。

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