「○倍だ」で十分伝わる

ただ通常であれば「n倍」と表現した時点で、もとの数量よりも高い(多い、大きい)ことを表します(分野によっては「n分の1倍」や「マイナスn倍」などの言い方もあり、その場合は元の数より小さくもなりますが、ややこしくなるので新聞では一般的に見かけません)。「高い」と付け加えずとも、対比は伝わるのではないでしょうか。

質問文の例なら「メタンの温室効果は二酸化炭素の25倍だ」で意味は通じますし、メタンの温室効果が高いことを強調したければ「メタンの温室効果は高く、二酸化炭素の25倍だ」と補うのはいかがでしょう。多くの人に違和感が小さく、読みやすい表現を心がけたいものです。

好ましくないことが「○日ぶり」…違和感ある?

【質問】
感染者数が「3日ぶりに」100人を上回った――こうした「ぶり」の使い方、どうですか?

【回答】
違和感がある……51.0%
違和感はない……49.0%

新型コロナウイルスの感染者数が増えているという好ましくないことに使う「ぶり」について、違和感がある人とない人がほぼ半々でした。時間の経過を表す「ぶり」を「好ましくないことには使わない」というのは、NHK放送文化研究所のサイトで2001年7月の記事(「~ぶり」の使い方や数え方は?)に記されています。

〈注意〉「~ぶり」には、語感の中に「待ち望んでいることへの期待感」を含んでいるので、「○年ぶりの大病」などという言い方は普通しません。

「よくないことには使わない」説

神永暁さんも「日本語、どうでしょう?」の2013年6月の記事(「2年ぶりに出場」──前回の出場はいつ?)で触れています。

「ぶり」にはそのことが起きることへの期待感が言外に含まれているので、「5年ぶりの大事故」といったような、よくないことには使わないとされてきた。

その上で、「好ましくないことにも使う」と明鏡国語辞典2版が注記していることに触れ、使い方が揺れていると指摘しています。

新明解国語辞典7版は時間を表す語につく「ぶり」の説明として、「(期待される)その事態が実現するまでに、予測される以上のそれだけの時間が経過することを表わす」と記しています。「期待される」ということは、つまり好ましい出来事について使うと示していることになるでしょう。

そのほかの多くの辞書の説明は「それだけの時間を経過して、再び同じ状態になることを表す」(大辞林4版)、「間にそれだけの時間がはいるようす」(三省堂国語辞典7版)といった具合に「ぶり」を使う時の「感情」には踏み込んでいません。それでも示されている用例は「期待感」が感じられるものがほとんどです。

「五年ぶりの帰郷」「三日ぶりの晴天」(大辞林4版)
「七日ぶり〈に/で〉救出された・五年ぶりの再会」(三省堂国語辞典7版)
「十年ぶりに日本の土を踏む」「しばらくぶりに映画を見た」(デジタル大辞泉)