「大台」を使った表現なら

ここまで述べたことは要するに、幅のある数字と「突破」という表現がかみ合わないということです。「突破」を使いたければ「3000人を突破」とすればよさそうですし、「台」を使いたければ「3000人台に達した」などの言い方をするのが穏当でしょう。

どうしても「突破」に加えて「台」の文字を使いたいならば「大台」を使った表現にすることも可能です。「大台」は、元は株式相場の用語で100円単位を指す言葉ですが、現在はもっぱら「金額・数量などで、大きな区切りや目安になる境目。『二兆円の大台を突破した予算』」(大辞泉2版)として使われます。この用例に倣えば「3000人の大台を突破した」も問題ないと言えるでしょう。

「○倍高い」には違和感あり

【質問】
メタンの温室効果は二酸化炭素に比べ「25倍高い」――「 」の中、どう感じますか?

【回答】
違和感がある。「25倍だ」などとしたい……68.9%
違和感はない……31.1%

「n倍高い」という表現には違和感があると答えた人が約7割と多数を占めました。「AはBのn倍だ」とすれば十分で、「高い」は不要と捉える人が多いようです。「高い」「多い」「大きい」などの形容詞に数量を表す言葉が組み合わさり、「AはBよりnメートル高い」「n個多い」などと書かれる時、その数量はAとBの差を表します。

焼却
写真=iStock.com/Leonid Ikan
※写真はイメージです

誤りでなくても違和感はある

「nメートル」「n個」が単位を伴って一定の数量を表す一方、「n倍」は決まった数量ではなく、基準となる数に対して、同数・同量を何回か加えた数量を表します。AとBの差分(足し算・引き算)ではなく、かけ算をもとにした表現です。

「メタンの温室効果は二酸化炭素に比べ25倍高い」という質問文の例は、二酸化炭素の温室効果を1とした時に、メタンの温室効果が25であることを表していました。しかし「nメートル高い」などの言い方からの類推で、「二酸化炭素の温室効果を25倍した分だけ、メタンの温室効果が高い」、すなわち「二酸化炭素の1に対しメタンが26」と読むこともできてしまい、混乱したり、気持ち悪さを覚えたりする人もいるかもしれません。7割もの人が「違和感がある」と回答しており、誤りではなくとも「なんとなく変」な表現ではあるのでしょう。

毎日新聞の過去の記事や、インターネット上の電子図書館「青空文庫」などで確認できた用例では、「n倍高い」は「n倍だ」と同じ意味で使われています。違和感はあるものの、捉え方に迷うほどに紛らわしい場合は少なく、おおむね誤解なく受け入れられているようです。