デフレ経済のなかで、事業分野の削減や組織の縮小を迫られている企業は少なくない。この撤退戦は、トップにしかできないことである。参謀は、この企業はどこに向かって進むべきかといった先のことを考えればいいのだ。

たとえばソニーがいまどこに向かおうとしているのか見えづらいのは、参謀不在だからだろう。盛田昭夫、井深大の時代も両者がともに経営者であって、トップと参謀の関係ではなかった。松下幸之助に高橋荒太郎という参謀がいた松下電器(現パナソニック)や、本田宗一郎に藤沢武夫がいたホンダとは異なる。

ソニーがベンチャー企業だった時期は幕末・維新期と同じで、トップはリーダーと参謀を兼ねていればよかったが、大企業つまり近代軍となってからは、常に参謀が不可欠だったはずだ。天才中内.のもと参謀不在のまま大企業となったダイエーのたどった道もよく知られたとおりである。

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参謀に必要な「能力の三角形」

いま企業の針路を考えるとき、参謀にとって必要なのは「能力の三角形」だ。つまり、マーケティング能力、技術力、財務能力の3つで形成される三角形である。このうち最低2つは兼ね備えていなければ、時代の流れを読む先見力と、複数の選択肢を案出する的確な判断力は発揮できない。

なかでも、低成長かつ市場の成熟期である現在においては、マーケティング能力は欠かせないものとなっている。技術参謀もマーケティング能力を併せ持つことが必要だし、財務分野の参謀も同様である。『関ケ原』の石田三成は行政参謀としては超一流だったが、軍の参謀としての能力には欠けていた。参謀も、自らの専門分野に加えて、時代に合うもう一つの能力を備えていることが必要なのである。

ソニーは任天堂の後塵を拝する形になっているが、それはソニーが技術者の喜ぶものばかりつくりすぎたからだとも言える。求められるのは半歩先を読むマーケティング能力である。技術優先で、一歩先、二歩先ではユーザーに理解されないのである。

(小山唯史=構成 早川智哉=撮影)