「猫たちも大変ですが、譲渡会はやったほうがいい」

その一人、神坂由紀子獣医師は「来場者の多くは、ただ猫を見たいだけ」なのだと説明する。神坂獣医師は、全国に先駆けて「飼い主のいない猫」問題に取り組んできた「ちよだニャンとなる会」の顧問として、譲渡会も初回から担当したという。

「その時も多くの人が並んだので、来場者を15分単位で入れ替えました。1回につき30人で、開催4時間で約480人が訪れたんですよ。譲渡会には15匹くらいの猫がいましたが、そのうち6、7匹の里親さんが決まりました。480もの人が来ても、だいたい里親が決まるのはそれくらいの割合です」

今日も30分単位で50人ごとの入れ替え制。つまり1時間で100人が訪れる。13時から19時30分まで行うから、昨年と同じような来場を見込んでいるのだろう。猫たちは多くの人に見つめられ、騒がしい環境でひたすらケージの中にいなければならず、相当ストレスを受けているように感じられる。どこかに隠れようと、ケージの中でもがく猫もいた。

「たしかに猫たちも大変ですが、でも里親さんが決まったらその先には幸せが待っていますから。だから譲渡会はやったほうがいいです」と、神坂獣医師。

撮影=笹井恵里子
神坂獣医師(左)と齊藤獣医師

「一匹の里親を決めれば、また新しい一匹を保護できる」

冒頭の墨田さんも、「譲渡会がないと猫の里親を見つけるのは難しい」という。

「インターネットで『里親募集サイト』がありますし、コロナ禍ではオンラインで譲渡会もやりましたが、やっぱり直接お会いしたほうが猫を送りだす私たちも里親になる人も、お互いに安心ですよね。もちろんリアルで行うのは手間も時間もかかりますが、私たちは猫が好きだから“いいおうち”を見つけてあげたいんです。大変だけど楽しんでやっていますよ」

そう言って笑う。長い間、決まらなかった子(猫)の里親が決定した時は、自然と拍手が起きるのだという。そう、猫好きな人のエネルギーはすごい。

撮影=笹井恵里子
里親会では猫のプロフィールをパネルで展示している。

ブースの前に出てお客さんの隣に立ち、ひときわ熱心に接客していたのは、梶澤恵子さん。「一匹の里親を決めたら、また新しい一匹を保護できて、殺処分から救えますから」と開催前に意気込みを語っていた。梶澤さんはペットショップで働いた経験をもち、現在は動物病院で勤務しているというだけあって、さすが接客が板についている。

「どんな猫をお探しですか」「ブースの裏で抱っこもできますよ」

にこやかに話しかけながら、訪れた人の不安や要望を聞き出している。猫を飼えない人には、里親が決まるまでのボランティアを勧めている。なるほど、それはいいアイデアだと思った。