保護猫は「猫エイズ」をもっていることがある

しかも、保護された猫は病気をもっていることがある。この日、同団体では8匹中、6匹の猫がエイズもち。猫の前にぶらさがったプロフィールを見ながら、それについて尋ねる人を時折見かけた。

「“FIV陽性”ってなんでしょうか?」

「猫エイズのことです。人間のエイズとは全く違うものですよ」と、神坂獣医師が答える。

「治療が必要なんでしょうか?」
「治療は必要ありません。現段階では自分の免疫で抑え込んでいる状態、キャリアといいますが、実は飼い猫になると生涯発症しないケースが多いんです。ほとんどが寿命を全うできますよ。気を付けるのはストレスだけですね」

それでも自分が飼うとなれば、ひるむだろう。健康な猫を飼いたいという気持ちになるかもしれない。

譲渡会が始まってしばらくは、ただ猫を見るだけ、触るだけの人ばかり。だが、2時間経過する頃、ようやく「申し込み」が入った。40代女性とその母親が、エイズをもち、ちょっとやんちゃな「ハントくん」という猫に申し込みをした。今、飼っている猫の遊び相手に迎えたいという。

里親会では来場者が猫を抱っこすることもできる
撮影=笹井恵里子
里親会では来場者が猫を抱っこすることもできる

「脱走が一番怖いんです」

早速、ハントくんを今日まで預かっていたボランティアさんと、ベテランスタッフの2人が面談を行うことになった。

なお、神坂獣医師に面談を行う際に重視することを尋ねると、「猫が病気になった時に治療できる、平均的な経済力があるか」と「こちらがお願いする脱走対策をしてくれるか」の2点を挙げた。

面談は穏やかに進んでいたが、女性宅に「屋上がある」と聞き、スタッフの顔が曇った。

「屋上には猫が脱走しないような対策が設けられているでしょうか?」

スタッフが尋ねると、女性はこう答える。

「一応、柵はあります。ただ、以前それを飛び越えて隣の家に猫が行ってしまったことがあって……」

女性が肩をすくめる。それに対し、「あまみのねこひっこし応援団」のスタッフは姿勢を正した。

「脱走が一番怖いんです」

ピリッとした口調で続ける。

「自分の縄張りじゃないところで外に出てしまうと、猫はパニックになります。突然道路に飛び出して交通事故が起きるかもしれませんし、もう戻ってこないことあり得ます。大変面倒ですが、私たちがハントくんをお届けするまでに、物理的な脱走対策をお願いすることはできますでしょうか?」