「ケージの購入をお願いできますか?」

“困った”というように、40代女性とその母親は顔を見合わせる。すでに2匹の猫を飼っていて、これまで無事にやってきたんだから、と言いたいようにも見える。しかし女性はしばらくすると、「わかりました」と言った。

続いて「ケージ」を購入する必要があるのか? と、尋ねる。今は家の中で放し飼いにしているため、ケージを使っていないそうだ。

「そうですね、すでに猫を飼われている場合は、最初はケージ越しに猫同士が対面する形がいいと思います。ケージの購入をお願いできますか?」

スタッフは言う。女性は「探せばあるかなあ」とつぶやいた。

また、スタッフは「ハントくんがもつエイズを、女性の飼い猫に感染させる可能性がゼロではない」ことも告げる。

私ならこの時点で、「もう飼うのはやめます」と言ってしまうかもしれない。面談終了後、女性に話を聞いた。

ついに申し込みはその女性だけだった

実は彼女は保護猫を飼うのが「初チャレンジ」という。これまでは近所に捨てられた猫を拾って、育てていたそうだ。いろいろ厳しいことを言われましたね? と水を向けると「保護猫を飼うのはハードルが高いって聞いてましたから」と苦笑いする。

「でも他の動物愛護団体の猫も見ましたが、ハントくんが性格的にうちの猫と相性がいいんじゃないかと思ったのと、奄美大島からわざわざ来たというので申し込みました」

そして、「まあ、たしかにもう少し譲渡のハードルを下げてくれたらなって思います」と、つぶやく。

「私だって猫に逃げられたくないから、自分なりに脱走対策を行っているんです。でも、そう言いたくなる気持ちもわかるんですよ。変な人に譲渡したら大変ですからね」

女性と母親は自分たちを納得させるようにそう言うと、「がんばります」とぺこりと頭を下げ、去っていった。

その後も、30分ごとに50人が来場し、「あまみのねこひっこし応援団」のブースにも次々に人が訪れたが、ついに申し込みはその女性だけだった。

※筆者註:ねこ里親会全体では19件の申し込み、赤坂いぬねこ里親会全体では102件の申し込みがあった。

無事に里親が決まったハントくん
撮影=笹井恵里子
無事に里親が決まったハントくん