日本語教師の採用なのに「保健」の教員が面談

模擬授業と面接は同じ日に行われた。

招集時間は朝8時で、校長室だった。そこで、イギリス人女性の日本語教員T先生や事務員と挨拶を交わした後、模擬授業を行う校舎に向かう。模擬授業は生徒と教員の前で約40分行い、それが終わったのが九時半。それからT先生との面接があったが、それは予想通り日本語教育に関することだった。その面接が20分程で終わりT先生が教室を出ていくと、次は外国語学科長である男性のP先生が入ってきて、面接が約20分続いた。最初は語学教師としての能力を問う質問があったが、次第に教師になった動機や教師としての信条など内面を見る質問に移っていった。

これら二つの面接で終わりかと思ったら、3番目の面接があるという。

P先生は別の教室に私を連れて行き、そこで保健教育の女性教員との面接が約30分間行われた。私はなぜこの先生と面談が必要なのかわからず、内心かなり驚いた。面接の主なテーマは「生徒が抱える諸問題を解決するためにどうすべきか」だった。「生徒の問題に気づいたら、すぐに他の人と情報を共有すること」が大切なことを説き、私がそれを納得したかどうかの同意を求めた。私は「まだ就職が決まったわけではないのに……」と思いつつ同意した。

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安全保護意識を確かめる長時間の面談

面接はこれで終わりではなかった。約30分の休憩時間を挟んで、四番目の面接があった。今度の相手はパストラル・ケア担当の熟練男性教員である。パストラル・ケアとは、生徒の学習環境・生活環境を保護し、生徒が問題なく学校生活を送れることを目指す取り組みである。ここでも彼は、まだ採用が決まっていない私に向かって、教師のあるべき姿や教師が注意しなくてはならないことをしゃべっていた。なんと、面接は1時間をゆうに超えた。正直に言うと、話が長すぎて彼が何を言ったかはあまり覚えていない。やっと終わって、解放された時に、思わず安堵あんどのため息をついてしまったことは覚えている。

模擬授業から始まり、4番目の面接まで全部の過程が終わったのは午後1時近かった。3番目と4番目の面接は、面接というよりは生徒の心身の健康や安全について注意すべき点の細かい指導だったが、この二つの面接だけで約2時間使った。これらの面接こそ子どもの安全保護に関する私の態度を試す面接だったのだと後になって思った。

今まで日本語教員として働いてきたタイの公立中高一貫校やUAEの国立大学では、働き始めてから「生徒に接する時の注意点」を上司や事務局からいくつか教えられたが、就職前にこのような面接は一切なかった。だから、イギリスの学校の採用試験の違いが際立った。