書類でも「安全保護」を再チェック

後日、面接試験合格の連絡が来た。喜び勇んで学校の校長室に行くと、校長秘書からDBSチェックを受けるように言われ、その申請書を手渡された。申請にかかる費用は当時約5000円で、学校が支払ってくれた。DBS証明書を得るためには、申請書に過去数年間に住んできた住所すべてや家族の氏名などを記入し、担当政府機関に封書で提出する必要があった。それから警察が身元調査をするので、証明書の交付まで約一カ月かかる。しかし、これを学校に提出してからでないと正式な採用に至らないことをこの時点で知った。

校長秘書からは、申請書の他にもイギリス教育省発行の子どもの安全保護に関する書類と、学校が独自に発行する同類の書類を渡され、待機中に読んでおくように言われた。面接であれだけ生徒に対する態度に釘を刺されているのに、今度は何十ページも書類を読まなくてはならないのか……と不謹慎にも思ってしまった。これらの書類は、読み終わったら「読みました」とサインした証書を提出しなくてはならなかった。なお、現在はオンラインによる子どもの安全保護対策講習がハロウスクールの新規採用者に課されている。

筆者提供
実際のDBS証明書

DBS証明書に期限はないが、3年に一度はアップデートすることが政府によって推奨されている。また、一度DBSに登録すれば、情報を自動的にアップデートできるオンラインサービスに有料で加入することができる。

「生徒に触れてはいけない」

働き始めてからは直接の上司にイギリスの学校とその学校のルールを教わった。

一番厳しいと感じたのは、イギリスの教員は基本的に生徒に触れてはいけないという規則だ。ただしスポーツや楽器など何か技術を教える時などは例外とされる。この規則に関しては賛否両論があり、生徒を励ます時・褒める時なら触ってもよいという意見も多いが、勤務先の学校では原則禁止だった。

その他、勤務先では個人的な写真は生徒の同意なく撮ってはいけない、個人のメールアドレスや電話番号を聞くことは特別な場合を除いて禁止、フェイスブックで友達になるのは禁止、などの規則があった(ただし生徒が卒業すればこれらのルールは適用されない)。これらの禁止事項は生徒にも周知されており、違反している教員がいれば、生徒は訴えることができる。

生徒が学校行事で学校外の大人と接触する場合も、学校の審査は厳しい。例えば、日本語を学んでいる生徒たちを日本に語学研修旅行に連れて行く際のこと。日本語力向上のためには日本人家庭にホームステイをするのが良いだろうと思い、私はそのような旅行計画書を学校に提出した。すると「ホームステイ先の家族はDBSチェックを受けているのか?」と学校から聞かれた。「日本にはそのような制度がありません」と言っても学校は満足しなかった。だから、ホームステイを請け負う日本の会社がホストファミリーの家を実際に訪問し家族と会って彼らが適正であるか審査していること、その会社がきちんとした経営をしている会社であることを証明してようやくホームステイの許可が下りた。

学校では「生徒の心と体の安全」について学ぶ定期的な研修会も欠かさない。1年は3学期制で、各学期の授業がはじまる前日に教員も学食のコックも清掃係もスポーツコーチも全員が集まるミーティングが開かれる。そこで必ずこのトピックに関する講義がある。たいていは外部から専門家を招く。私はある学期の全体ミーティングの日に日本から来客があったので学校に休ませてほしい旨の連絡を入れたが、「よほどの理由がない限り欠席は許されない」というコメントが返ってきた。