こども家庭庁が導入を目指している「日本版DBS(=Disclosure and Barring Service)」。子どもと働く人に「性犯罪歴なし」という証明を求める制度だが、モデルとなったイギリスでは、どのような運用がされているのか。イギリスの中高一貫校で働いた経験を持つ松原直美さんは「犯罪歴証明書を提出するだけでなく、採用試験の面接では指導も行われ、決して性犯罪は起こさないという覚悟を感じた。日本のDBSの議論は生ぬるいと言わざるを得ない」という――。
男子生徒と高校教師
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「禁じられた人リスト」に載ったら業界から永久追放

イギリスでは18歳以下の子どもと接する職業に関わるすべての人に、常勤・非常勤にかかわらず政府が発行する犯罪歴証明書(以下DBS)が必要だ。

子どもと働く人の適性調査の歴史は古く、非公式には1926年に始まっていた。すでに19世紀初めには、学校の指導者が生徒に対し身体的な暴力や性的な暴力をふるいとがめられたという記録もある。しかし法制が整備されたのは1980年代だ。以来、適性調査は徐々に強化され、2012年にDBSチェックの制度が確立した。

DBSチェックの証明書は基本・標準・拡張・就業禁止者リスト付き拡張の4種類に分かれている。基本の証明書では、過去の処罰が済んでから一定期間が経過している前科は表示されない。一方、拡張の証明書は過去に起こしたすべての犯罪が表示される。イギリスの保育園から高校までの教育機関で教員として採用されるには、「就業禁止者リスト付き拡張」の証明書が必要で、公立・私立を問わず「子どもと接する仕事を禁じられた人リスト(DBS Children’s Barred List)」に登録されていないことが明記されていなければならない。

このリストに一度登録された人は、どんなに時間が経っていても子どもにかかわる仕事に就くことはできない。例外は、登録されてから規定の期間が経った後に再審理を要求し、再審理で最初の判断がくつがえった時だけだ。一方、日本では犯罪の刑の効力は一定期間経てば消滅する規定があり、性犯罪を犯していても一定の条件を満たせば教員に復職できる。これはイギリスと比べると手ぬるいと言わざるを得ない。