初めての軽いうつ症状

わたしは、それまでやっていた仕事をつづけた――オンラインの有権者登録キャンペーンで話して、いい取り組みを支援し、人びとの痛みを受けとめた。でも内心では、自分のなかの希望に触れたり、自分が本当に変化を起こせると感じたりするのがむずかしくなっていた。八月なかばに開催される民主党全国大会で演説してほしいと党の首脳部から依頼されていたけれど、まだきちんと向きあえていなかった。それについて考えるたびに行き詰まって、自分自身の挫折感と、国としてすでに失ったものへの深い悲しみにとらわれた。何を話せばいいのか、想像もつかなかった。失望の膜に包まれていくように感じて、心はどんよりとしたところへ傾いていった。

それまでうつ病のようなものと闘ったことはなかったけれど、これは軽いうつ状態のように感じた。楽観的にものを見たり、未来のことを合理的に考えたりしにくくなった。さらに悪いことに、冷笑的な考えに陥りかけていた――自分は無力だと結論を下しそうになって、いまの大問題や大きな心配事については何もできないという考えに身を委ねそうだった。何にもまして、わたしが闘わなければならなかったのがその考えだ。何も解決できそうにないし、やり遂げられそうにない。“なのに、どうしてわざわざやろうとするの?”

写真=iStock.com/torwai
※写真はイメージです

編み物との出合い

こんなふうに気持ちが沈んでいたとき、オンラインで買っていた初心者サイズの二本の編み針をようやく手にとった。絶望感――自分にはできないという感覚――と格闘していたとき、買っておいた太いグレーの編み糸を少し取りだして、初めてそれを針に巻きつけた。小さなスリップノットに針をひっかけて、ふたつ目の輪に取りかかる。

編み物の入門書も二冊買っていたけれど、それを見ても図を手の動きに移しかえるのがむずかしかった。そこでYouTubeをのぞいたら、大量の解説動画と、何時間分もの根気強い説明や気のきいた助言を提供する世界中の熱心な愛好者コミュニティが(案の定)見つかった。頭に不安をたくさん詰めこんだまま、自宅のソファにひとり座って、ほかの人が編み物をするのを見た。そして、まねをしはじめた。わたしの手が、その人たちの手のあとを追う。表編みをして裏編みをし、裏編みをして表編みをする。しばらくすると、興味深いことが起こりはじめた。焦点が絞られて、心がほんの少し楽になったのだ。