患者1795人を対象にした試験の結果

レケンビでは、北米、ヨーロッパ、アジアの50~90歳のMCIと軽度アルツハイマー病の患者1795人を2グループに分け、一方にはレケンビ、もう一方には偽薬(プラセボ)をそれぞれ1週間おきに1年半にわたって静脈内に点滴で投与し、その効果を比較した第3相試験「Clarity AD試験」が行われている。

効果は認知症の重症度や進行度を評価する臨床的認知症尺度(CDR)というもので評価した。CDRは認知症で認められる症状や周辺環境変化を6項目に分類。各項目5段階の深刻度を医師が評価し、それに応じてあらかじめ定められた点数(18点満点)を合計して評価する仕組みである。点数が高いほど症状が進行していることを示す。

試験終了時点での点数の変化から、レケンビを投与されたグループでは、偽薬を投与されたグループに比べ、アルツハイマー病の症状の進行が27%抑制されていたことが分かった。これを期間に置き換えると、レケンビを投与された人では、偽薬を投与された人と比べ、あるレベルまでの認知機能低下を5.3カ月先送りすることができたという結果になる。

また、最近ではこの結果とアルツハイマー病の自然経過データを使用したシミュレーションから、アリセプトなどの対症療法にレケンビを加えた場合、対症療法のみと比べて軽度認知障害(MCI)→軽度アルツハイマー病→中等度アルツハイマー病→高度アルツハイマー病という進行の各段階(矢印部分)を2~3年遅らせる可能性があると試算されている。

レケンビ特有の副作用とは

一方、レケンビには特有の副作用もある。アミロイドβは脳内では神経細胞のほかに血管の外側にも溜まった結果、血管の一部がもろくなっている。このためレケンビを投与すると、この血管に溜まったアミロイドβも分解・除去することで「アミロイド関連画像異常(ARIA)」という副作用が起こる。

このARIAは抗体が血管の外側のアミロイドβを除去した際に、血管から漏れ出した血液の液体成分で脳組織がむくむ「アミロイド関連画像異常――浮腫/浸出(ARIA-E)」、あるいは血管から出血する「アミロイド関連画像異常――微小出血/脳表ヘモジデリン沈着(ARIA-H)」の2種類に分けられる。

Clarity AD試験ではレケンビを投与された人のうちARIA-Eが12.6%、ARIA-Hが17.3%確認され、うち具体的に何らかの症状が出た人はARIA-Eが2.8%、ARIA-Hが0.7%だった。

なお、Clarity AD試験後の継続試験では、レケンビを投与された人のうち2人が脳出血で死亡したと報告されている。ただ、このケースは、別の理由で血液を固まりにくくする薬を服用中だったり、出血を起こしやすい合併症を複数有していたりなどの事情があったため、レケンビ投与が死亡につながった可能性は現時点で低いと考えられている。

もっともARIAは発見が遅れると致命的になる可能性があるため、治療の際は定期的にMRI(磁気共鳴画像)を撮影し、注意深く経過観察することが必要になる。