合理的な理由や真っ当な理屈は何もない

それでも何とか開催にこぎつけ、おかげさまで作品は全部売れて、その後も4回ほど個展を開くことができました。

個展をやったのは、新規事業のためでもビジネスのためでもありません。ミッションもビジョンもゴールもありませんでした。合理的な理由や真っ当な理屈は何もなく、ただただ、現状を突破したかった。何かに出会いたかった。やりたいからやった――そんな感じでした。

この体験で得た、「自分で思いついて自分で作って人に直接手渡す」という喜びは、とても大きかった。それでいい気になって、これはビジネスでも同じことができるはずだと考えて、新規事業がやりたいという意欲が湧いてきました。

元々、都市開発事業部という部署で天王洲の開発を担当していたんですが、個展を開いたときに所属していたのは情報産業部グループという部署で、リアリティはゼロ。もっと手触り感のある、リアリティのある職で働きたいという思いが強くなったんですね。

そのときたまたま、情報産業グループの常務と、三菱商事が株主だった日本ケンタッキーフライドチキン(KFC)の社長が、「一緒にプロジェクトができたらいいですね」とパーティーで話していたという情報をキャッチしました。私はすかさずKFC向けのシステム開発の企画書を作って常務に提案、なんとか出向させてもらいました。それがSoup Stock Tokyoの創業に繋がっていきます。

撮影=宇佐美雅浩
KFCに出向する前に所属していた部署は、食とは全く縁がない情報産業グループ。「リアリティのある職で働きたい」思いをかなえるため、自ら情報を集め企画提案した。

利益を超えた理由が必要

いま、新規事業はますます成功しづらくなっています。高度成長期は拡大の時代でしたから、成功と失敗の確率は7:3ぐらいだったと思います。しかし、停滞の時代のいまは、4:6。6割が失敗すると思ったほうがいいでしょう。単純にお金を儲けたいだけなら、マカオのカジノにでも行ってルーレットで黒か赤のどちらかに賭け続けているほうが勝率は高いぐらいです。

負ける可能性のほうが高いゲームにそれでも挑戦するには、利益を超えた理由が必要です。それは、個展をやったときの私のように、「私はこれがしたい」という個人的な理由かもしれないし、「社会にはこれが必要だ」というソーシャルな理由かもしれません。

私は、J型とS型という表現をよく使います。J型とは、人生・自分ごと。S型とは、ソーシャル・システム。個人的な体験であるJ型が入り口となりながら、S型の意義を世の中と共有して、ビジネスとしてのシステムを構築していく。こうしてJとSの両足で前に進んでいける人には、「突破力」があります。

球を持ってひたすらゴールに向かう力、泥をかぶってでも歯を食いしばって球を守り抜く力、そう言えばいいでしょうか。突破力があれば、新規事業に成功するチャンスは高まります。

会社のリソースが足りない、予算がつかない、上司がダメ……。そんな不満を言っているぐらいだったら、新規事業なんてやらないほうがいい。相手のせいにしたら終わり。他人のせいにするのが一番簡単です。

新規事業を認めてもらえない、新規事業が上手くいかないのは、その商品やサービスが必要だということを、あなたが上司や会社や社会に説得できていないからです。