ChatGPTをはじめとするAI技術の進化で、人間にしかできない仕事はますます少なくなっている。そんな時代でも新しいビジネスを生み出し、価値を発揮できる人は何が優れているのか。スープ専門店「Soup Stock Tokyo」をはじめ、様々な新規事業を生み出してきたスマイルズ代表の遠山正道さんは、「ちょっとした行為でも自分を表現することはできる」という――。

当事者意識から出発した新規事業は強い

「新規事業をやろう」と思って始めた新規事業が上手くいくところを、僕はあまり見たことがありません。なぜか。事業をやることが目的化した事業には、当事者がいないからです。

新しい事業は、リソースがないなかでゼロから生み出さないといけない。生み出したあとも、ちゃんと運営して継続拡大させていかないといけない。きっと、上手くいかないことだらけでしょう。

そのときに、「これは“私”がしたいことだ」という当事者意識を誰も持たないでいると、みんなでボールを渡し合って終わってしまうことが多いのです。

逆に言えば、「“私”はこれがしたいんだ」という当事者意識から出発した新規事業は強い。リソースがなくても、なんのお膳立てがなくても、困難を突破していくことができます。

スマイルズ代表の遠山正道さん。
撮影=宇佐美雅浩
スマイルズ代表の遠山正道さん。

「何かチャレンジしたい」未経験で絵の個展を開催

私は33歳のときに、絵の個展を開きました。新卒で三菱商事に入社してから10年経ち、「このままただサラリーマンをやって死んでいくのは嫌だな」という思いがはっきりしたんです。それで、「何かチャレンジしたい」と思って、長年憧れていた絵の個展をやりました。1996年のことです。

そのときの私は、プロのアーティストでも何でもありませんでした。学生時代にイラストをちょこちょこ描いていたぐらいで、絵というような絵は1枚も描いたことがない。キャンバスを買ったこともなければ、筆も持ったこともない。アート業界に知り合いもいないので、個展を開くといったって何から手を付けていいかわからない。

ギャラリーと美術館の違いすらわかっていなかったのでしょう、若い人の初個展としてはあり得ないぐらい広い会場を借りてしまった。もちろん費用も相当かかりました。いま思うと本当にゾッとします。その広さの会場を埋めるために、1年間で70点作品を描きました。週に1枚以上ですから、かなりのハイペースです。朝4時に起きて、出社前に描く。当時は娘が生まれて、まだ2歳ぐらい。いま思い返すと、何もかもが無茶苦茶でした。