新規事業は自らを表現する仕事

こうした時代背景を踏まえると、新規事業は自らを表現し、自分自身の価値を他者に示していく方法のひとつだとも考えられます。

「表現」と言うと、アーティストやミュージシャンといった特別な存在がイメージされるかもしれません。でも、どんな服を着たいか、どんな話し方がしたいか。何を作りたいか、何を描きたいか。そんな、日常生活という小さいスケールのなかで自分の意思みたいなものを切り出したり発揮したりすることも、表現のひとつ。

新規事業をシステマチックなスケールの大きい産業と捉えるのではなく、もっと、江戸時代の個人商店みたいな、「ヒューマンスケール」に自らを表現する仕事だと考えてもいいと思うのです。

私は最近、「新種の老人」と名乗って、YouTubeをやっています。北軽井沢にある自宅のひとつでの生活を自分で撮って、音楽も編集も自分で担当しています。登録者数も再生回数も微々たるものですが、自分が楽しくやっていることを誰かが楽しく見てくれていると思うと、幸せなものですよ。

「こうじゃなきゃいけない」ってことはない

失われた当事者意識を取り戻すには、日々の仕事のなかで、「自分がその仕事をするのは誰のためか、何のためか」「自分だったらどうするか」を問い続けるといいと思います。

小さいことでいいんです。例えば、私はお客さんが来たとき、あえて黒豆茶を選んで出しています。将来、奈良にある実家を旅館にしたい。そのとき地元の黒豆茶を出したいと思っていて、そのためのちょっとした実験なんです。

お客さんにお茶を出す、というちょっとした行為でも自分を表現することはできる。自分を中心に据えてどうするかを考えるクセがついていなければ、普通にペットボトルのお茶を出していたでしょう。絶対的なルールや規範なんてないのだから、どんな仕事にも自分の意志を入れればいい。

「どんな仕事にも自分の意志を入れればいい」と話す遠山氏。
撮影=宇佐美雅浩
「どんな仕事にも自分の意志を入れればいい」と話す遠山氏。

最初の個展を開いたとき、手伝ってくれた女の子がこうつぶやいたことが今でも忘れられません。

「『こうじゃなきゃいけない』ってことはないわよね。」

すげえいい言葉だなと思って、私自身、「こうじゃなきゃいけないってことはない」という気持ちで、これまで頑張ってきました。

何でも自分で決める当事者意識を持つ。請け負い仕事でやっていてはだめです。

(構成=奥地維也)
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