経営会議で泣きながらプレゼン

武宏くん、という人がいます。私が社長をしていたスマイルズのセレクトリサイクルショップ事業PASS THE BATONの店長を務めたあと、新宿でBar toiletという小さなバーを始めました。

彼は、新規事業を提案するにも、今の現場で認められなければ資格がないと感じていた。そこでまずは自分の実力を示すためにPASS THE BATONで高い業績を上げ、店長としてのMVPに。表彰式で表彰されて壇上から降りたその足で、隠し持っていたBar toiletの企画書を副社長に手渡しました。

「自分には娘が2人いる。娘たちが将来大きくなって、『チャレンジしたい』と自分に相談してきたとき、自分がチャレンジしていないとそれに答えられないから、自分はチャレンジしたいんです」

表彰式のあと行われた経営会議で彼はこう言って、泣きながらプレゼンしました。飲食業の大変さを肌でわかっている私たちも、「わかったわかった、やろう」と言うしかなかったです。

彼のような当事者意識があれば、あとはもう球を渡して走っていくのを見守り、相談を受けたり、軌道修正のアドバイスを少ししてあげるだけでいい。とにかく球を持って走り、ゴールに球を置くんだというのがはっきりしているから、何も心配はありません。

会社が「新規事業をやらなきゃ」と利益を目的に始めても、誰が泥かぶってでも球持ってずっと走り抜くのかとかその人の動機づけがない。真ん中がボッカリなくて、手段しかない仕事は、うまくいかないでしょう。

「暇つぶし」か「表現」しかすることがなくなる

私は、これからの時代は「ピクニック紀」になると思っています。ピクニックには、草原と自分と他者しかいません。スポーツのような勝敗はなく、目的も目標もなく、ただただ野原で遊び、交流する――ピクニック紀は、そんな世界です。

ピクニック紀は仕事がどんどん減っていく時代でもあります。気候変動や少子化が進み、AIやロボットがますます発展していくなかで、人から与えられる請け負いの仕事はどんどん減っていくからです。

仕事量の減少にあわせて、働き方も変わります。仕事は全部プロジェクトベースになり、私たち全員がフリーランスになる、そういうイメージです。

これからの人間は、「暇つぶし」か「表現」しかすることがなくなると言われています。30代の人も、60代の人も同じです。ピクニック紀で何よりも大事なのは、「自分は何者か」を確立すること。そして、その自分の価値によって他者とつながることです。

想像してみてください。ピクニックをしている人に、あなたが「私は○○会社の部長です」と言っても、「で?」と思われるでしょう。でも、「料理が好きです」「ギターが弾けます」「詩人です」と言ったら、その人は面白がってあなたをピクニックに招き入れてくれるはずです。

いままでの数十年は、仕事にかまけて自分のことを考えなくても済んだ時代でした。でもこれからのピクニック紀は、当事者意識を取り戻して、自分の人間としての価値、幸せ、在り方を考えなくてはいけない時代です。そうしなければ、社会の一員になることもできません。過酷な時代だと思います。

仕事がどんどん減っていく時代は「自分の在り方を考えなければ、社会の一員にもなれない」(遠山氏)。
撮影=宇佐美雅浩
仕事がどんどん減っていく時代は「自分の在り方を考えなければ、社会の一員にもなれない」(遠山氏)。