収入を知り、プライドが傷ついてしまう
結婚すると、相手の収入が見えてきます。給与明細を見せ合わない夫婦でも、なんとなくお互いの経済状態は察しがつきますし、保育園の入園手続きで収入資料を提出する際や、児童手当の受給の際に、お互いの収入がわかったという人もいます。
その時、妻が自分と同等、あるいは自分よりも高い収入を得ていると知って、プライドを傷つけられてしまう男性が一定数いるのです。
「男女平等の世の中であるべき」「女性も働くべき」と頭で思ってはいても、自分自身の収入が妻より低いとなると、そのことに劣等感を覚えてしまうのだと思われます。
また、男女平等の概念が浸透してきたとはいえ、社会全体ではいまだに「女性は結婚したら家庭に入るべき」「妻より夫の方が稼ぐべき」という考え方の人がいます。それも、このようなモラハラを生んでしまう一因です。
夫婦の間で納得して決めたことなのに、夫の家族や友人、職場の人などから、「奥さんは専業主婦になってくれなかったの?」「お前の給料が安いから嫁さんが働かなきゃいけないのか」といった心無いことを言われて、窮屈な思いをするようになったという人もいました。
こうしたさまざまな理由から、理解があるはずだった夫が、自分の居心地の悪さを、妻が働いていることに対するいら立ちに転換させてしまうのです。
収入格差を気にしていることを、素直に妻に打ち明けられればよいのですが、プライドもあるのでなかなかそうはできません。
その結果、男女平等を盾に「妻の方が稼いでいるんだから余計な金は出したくない」「働かせてやっているんだから妻が全部払えばいい」という気持ちになってしまう……。これが、A子さんの夫のようなモラハラの裏にある心理です。
結婚前に見抜くのは難しい
このタイプのモラハラを見抜くのが難しいのは、夫も決してだまそうと思って結婚前に優しい言葉をかけていたわけではないという点です。
もともと社会問題に関心があり、ある程度の教養や良識もあります。本心から働く妻を応援しようという理想を抱いて結婚したのに、さまざまな現実を目の当たりにした結果、その理想の通りに動けなくなってしまうのでしょう。
さて、私個人の意見ですが、このタイプのモラハラが今後も増え続けていくかというと、その可能性は低いと思います。
今は女性の社会進出が進み、男女の収入格差が縮まっていく過渡期だからこそ、「男女平等」という理想と現実のギャップに居心地の悪さを感じてしまう男性が、モラハラをしてしまうのだと考えられます。
もしさらに収入格差がなくなって、女性が結婚や出産後も働くことが当然の社会になれば、妻に劣等感を覚えて嫌がらせをするような男性は減っていくのではないでしょうか。
結婚前の理想と結婚後の現実が食い違ってくるのは、どの夫婦にもよくあることです。
大事なのは、夫の態度が変わり始めた時に、なぜそうなったのかを話し合える関係でいることだと思います。