「離婚したら子育てができない…」

優しかった夫は変わってしまった、もう離婚したいと思いましたが、A子さんにとって大きなネックは子どものことでした。最低限の手伝いしかしてくれない夫ですが、それでも夫がいないと育児が成り立たないのです。

夫とは一緒にいられない、でも離婚したら子育てができない……。そんなジレンマに追い詰められながらも、「男女平等だから」「私が頑張るって言ったから」と、A子さんは仕事と育児をこなしていました。

そのうちに、動悸どうきがしたりめまいがしたりと、体調に異変が出てきました。このままでは倒れてしまう、何とかしないとという気持ちで、A子さんは私の法律事務所に相談にいらっしゃったのです。

SNSでは「ジェンダー平等」を投稿

相談に来たA子さんは、とてもしっかりした女性でした。しかしすっかりやつれていて、「夫は怖いのに、その夫に協力してもらわないと子育てができない自分が情けないんです」と、泣き出してしまいました。

A子さんは夫の暴言を何度か録音していました。結婚前の優しいエピソードからは想像もつかないほどの暴言を繰り返す一方で、夫のSNSを見てみると、やはりジェンダー問題についての投稿を続けています。A子さんに物を投げつけた日にも「働く女性は社会で支えるべき」といったコメントを書いていて、とても子どもにかかる費用を1円も払わない人とは思えません。

詳しく話を聞くと、A子さんは責任感が強く、「誰にも頼ってはいけない」という気持ちで頑張ってきたようでした。そのため、隣県に住む実家の両親にも一度も夫のことを相談したことがないというのです。

「夫に頼らない子育て」の準備

さて、A子さんのネックになっているのは子育てです。「夫と離婚したい。一般的な金額の養育費を払ってもらえるなら、ほかには何もいらない」という希望を踏まえると、育児さえなんとかなれば、A子さんは離婚に踏み切れそうでした。

そのため、まずは夫と離れて生活する準備をする必要があるというアドバイスをしました。

A子さんが両親に窮状を話し、週に1日か2日だけでも来てもらえないかと頼むと、すでに定年退職していた両親は喜んで協力してくれることになりました。

その他、行政や民間の子育て支援サービスを調べて、子どもの面倒をいつ誰が見るか、スケジュールを立てていきました。

夫に頼らずとも子育てができそうだという見通しが立ったところで、A子さんは夫に離婚を切り出しました。

夫は「君だけでどうやって育てるんだよ」と笑いましたが、A子さんが「あなたなしでも育てられるから」と言ったところ、夫は家を出て行きました。