インフレがコントロール不能になりそうな状況にもかかわらず、なぜ日銀は、かたくなに「史上最強の超ド級の緩和政策」の解除に踏み切らないのか。

どう考えても答えは一つしかないだろう。緩和解除をしたくても動けないのだ。動けば、日本の金融システムが、日銀自身が、日本円が、死んでしまうからに他ならない。

これこそ、私が「逆説的なようだが、景気が良くなったり、インフレになったりしたら日本は終わりだ」と言い続けてきた理由である。緩和を解除したくても、実行すれば日本経済がたちまち終わる。だからインフレ下の超ド級の緩和政策を続けるしかないのだ。

日銀ができることはマイナス金利の解除くらい

今後、日銀ができることと言ったら、せいぜいマイナス金利の解除と長期金利上限の0.1%程度の引き上げだけだろう。シミのような修正だ。「マイナス金利の解除」と聞くと大きなイベントのように聞こえるが、経済的にはなんの意味もない。

「マイナス金利政策」とは日銀当座預金にマイナス金利を付利すること。日銀の「業態別の日銀当座預金残高(2023年4月)」によると、マイナス金利の適用は525兆円の日銀当座預金残高のうち、たったの22兆円だ(2023年4月16日~5月15日平均残高)。

日銀の当座預金残高の大部分がマイナス金利ではないのだ(筆者註:ゼロ金利適用残高は296兆円、プラス金利適用残高は206兆円)。この22兆円をゼロ金利にしたところで、銀行の収益が、気持ち上向くだけでインフレ制御には全く役に立たない。

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米国では急ピッチで利上げを進める中でシリコンバレーバンク(SVB)やファースト・リパブリック・バンク(FRC)の銀行破綻が起きた。しかしこれは金利上昇期に過剰な長期運用/短期調達を行った、プアな経営をしていた個別銀行の問題にすぎない。

しかし日本では長期金利の上限を0.5%まで引き上げる微調整は行われたものの、緩和解除はまだ始まったわけではない。それなのに地銀や生保でさえ保有債券に含み損が生じ始めている。

変動型の住宅ローンを組んだ人々が日銀の巻き添えになる

仮に今後、日銀が緩和解除を開始すれば、金融システム全体が危機に晒される。大半の銀行が金利上昇期にもかかわらず長期運用/短期調達を過激に行っているからだ。過去と違い、多くの国民が変動型で住宅ローンを組んでいるからだ。

一番、ダメージを受けるのは日銀だ。日銀は581兆円の長期国債の運用に対し、552兆円もの短期調達(日銀当座預金)を行っている(4月23日時点)。「統合政府論の実践」のせいだ。世界に類を見ないほどのミスマッチポジションと言える。

しかも運用サイドの保有長期国債平均利回りは令和3年度の平均で0.227%と異常に低い(=高値で国債を購入)。運用がこれほどに低い利回りなのだから長期金利が少しでも上昇すればすさまじい評価損が生じる。調達サイドの金利を上げたら、巨大な通貨発行損(負のシニョリッジ)が発生する。損のたれ流しだ。