「手をつないで横一列でゴールしろ」と言いたいわけではない

勝利至上主義について批判すると「だったら、みんなで手をつないで一緒にゴールするのが、正しいスポーツのあり方なのか」と反論される。そうではないんです。健全な競争主義は選手を成長させて、競技レベルを上げます。競争は、スポーツに不可欠な要素です。ただ、勝利至上主義になると話が変わってくる。極端な勝利至上主義がスポーツで得られるはずの選手の成長を奪っている現実を知ってほしいのです。

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――昨年、日本柔道連盟が小学生の個人戦の全国大会を廃止しました。これも勝利至上主義に対するアンチテーゼなのですか?

柔道では、以前から親や指導者が負けた子どもを怒鳴りつけたり、審判の判定に対して文句を言ったりする問題が起きていたようです。さらには小学生に減量を強いる親や指導者もいた。勝つために大人が必死になりすぎていたのが、全国大会廃止のきっかけとなったと聞きました。日本柔道連盟には、たくさんの苦情が寄せられたそうです。「子どもが目標にしていたのに、なんで廃止したんだ」と。

「中高生の全国1位」を決める必要があるのか

でも、全国大会の廃止は英断でした。ぼく自身は、高校生、いえ、せめて中学生までは全国1位を決めなくてもいいのではないかと考えています。子どもの頃から全国1位を決める意味があるのか、と。

勝利至上主義に疑問を抱いたのは柔道だけではありません。ミニバスケットボールの全国大会では優勝チームを決めません。トーナメント方式ではなく、参加チームの交流戦を行います。しかもゾーンディフェンスが禁止なんです。

――どういうことでしょう。

ゾーンディフェンスは、組織的なディフェンスのシステムです。小学生でも比較的簡単に身につけられます。ゾーンディフェンスを徹底すれば、勝利には近づく。目先の勝利にとらわれた指導者はゾーンディフェンスを教え込もうとするでしょう。

しかし、長い目で見たらどうなのか。小学生は個人的な動きや技術を吸収していく年代です。幼いうちから、組織的なゾーンディフェンスを教え込まれたら伸び代がなくなってしまう。全国大会ではマンツーマンディフェンスをすることが決まっています。

選手たちは1対1で工夫して相手を抜こうとしたり、必死で止めようとしたりする。全国の選手を相手に、自分の技術や実力を試す機会になるんです。そこからたくさんの気づきや学びがあるはずです。柔道やミニバスケットボールに代表されるように、各スポーツが勝利至上主義からの転換をはかっているのです。