野球やミニバスケで進む脱・勝利至上主義

――明治時代にイングランドから日本に伝わったラグビーは大学同士の交流戦から発展しました。また87年に第1回W杯が開催されるまでは、基本的には国同士のテストマッチで腕試しをしていました。理想的なスポーツのあり方だったと言えるのではないですか?

そう思います。ぼくの大学時代も、同志社大は明治大と定期戦を毎年組んでいました。全盛期だった明治大にどれだけ戦えるか。毎年同じ時期に腕試しができる。定期戦をひとつの目標にして1年間、練習に取り組みました。負けたら悔しいし、勝ったらうれしい。でもいま振り返ると試合後のアフターマッチファンクションでの経験が、とても大きかった。

アフターマッチファンクションとはラグビーの試合後に開催される交流会です。ビールを飲んで食事をしながら、対戦したばかりの明治大の選手たちと試合について、ラグビーについて語らう。勝ち負けを越えたとても貴重な経験でした。

先日、面白い記事を読みました。高校野球でも脱・勝利至上主義が進んでいるというのです。甲子園とは別に全国百数十校が参加するリーガ・アグレシーバというリーグ戦があるそうです。興味深かったのは、試合後に行われる“感想戦”です。選手たちが試合の感想や、打席やピッチングで心がけていることなどをチームの垣根を越えて話し合う。“感想戦”は、ラグビーのアフターマッチファンクションを参考にはじまったと記事にはありました。

タイムアウト中に選手のグループと話すコーチ
写真=iStock.com/miodrag ignjatovic
※写真はイメージです

対戦相手を交えた試合後の「感想戦」が選手を成長させる

――アフターマッチファンクションはラグビー独自の文化なのですか?

以前、サッカー指導者の前でラグビーについて話したことがあります。そのなかでアフターマッチファンクションに触れました。参加した指導者の1人がフランスで少年たちに指導した経験があった。彼が「試合後は家族も交えてバーベキューなどをして相手チームと交流する。フランスでは当たり前ですよ」と教えてくれました。

山川 徹『国境を越えたスクラム 日本代表になった外国人選手たち』(中公文庫)
山川徹『国境を越えたスクラム 日本代表になった外国人選手たち』(中公文庫)

きっとヨーロッパでは試合後の交流会もふくめてスポーツという考え方が定着しているのでしょう。それがラグビーに限らず、もともとのスポーツ文化だった。日本のアフターマッチファンクションはラグビーとともに伝わって文化として残り、現在も継承されているのだと思います。

とはいえラグビーもプロ化が進んで、試合後のアルコール摂取を控える選手が増えた。その影響か、アフターマッチファンクションもどんどん減っていると耳にします。私も神戸製鋼時代はプロ契約していたので、試合後に身体を休ませて次のゲームに備えたいという選手の気持ちはわかります。

でも、私にとってアフターマッチファンクションは、ラグビーの魅力のひとつでした。実力を競ったあとに、敵味方の区別なくラグビーやプレーについて語り合う。目先の勝利だけを優先していたら、そんな場は必要ありません。勝利至上主義に陥らずに、スポーツを通して選手の成長を促す。そのためにはアフターマッチファンクションのようなスポーツが培ってきた文化を大切にすべきだと感じるのです。

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