ラグビーとほかのスポーツには大きな違いがある。元ラグビー日本代表で神戸親和大学教授の平尾剛さんは「ラグビーに関わる人は皆『ノーサイドの精神』を持っている。そのため、ファンも選手も悔しい敗戦をしても相手を称えることができる」という。『国境を越えたスクラム』(中央公論新社)の著者でノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。(第1回/全3回)

「選手の主体性」が「ブライトンの奇跡」を起こした

――9月8日にラグビーW杯フランス大会が開幕しました。見どころを教えてください。

試合の勝敗以上に、ラグビーというスポーツの本質を知ってもらえる機会になればと考えています。

そのひとつが、選手たちの選択と決断です。

元ラグビー日本代表で神戸親和大学教授の平尾剛さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
元ラグビー日本代表で神戸親和大学教授の平尾剛さん

2015年W杯で日本が格上の南アフリカを破った「ブライトンの奇跡」では、試合終了直前まで3点差で負けていました。ロスタイムに南アフリカがペナルティを犯し、日本に2つの選択が与えられました。安全にペナルティキックで3点を取るか、それともリスクを冒してスクラムからゲームを再開してトライ(5点)を狙いに行くか。

ヘッドコーチだったエディー・ジョーンズはペナルティキックで3点を追加し、同点で試合を終えようと考えていたそうです。でもキャプテンのリーチ・マイケル選手はスクラムを選択し、逆転勝利につなげました。

監督がピッチ上に立って指示を出すサッカーやベンチからサインを送る野球とは違って、ラグビーのヘッドコーチは客席から試合を眺めています。選択は選手に委ねられている。試合が始まれば、キャプテン以下、選手たちが自分たちで考えてプレーやゲームプランを決めていく。選手の主体性が試されるのがラグビーの面白さです。

今も色濃く残るアマチュアイズム

レフェリーに対する敬意もラグビーならではでしょう。

ラグビーの試合では選手がレフェリーとよく話す。レフェリーにカードを出されると選手たちはシュンと肩を落としてグラウンドから退場する。その姿がかわいいと話してくれた友人がいました。一方で、なんでラグビー選手はレフェリー文句を言わないのか、と疑問を持った人もいたようでした。野球やサッカーではレフェリーに抗議したり、異議を申し立てたりするのが当たり前なので新鮮に見えたのでしょう。

これは、ラグビーが元々アマチュアスポーツだったことが大きいです。アマチュア時代は、選手もレフェリーも手弁当で試合を作り上げていたので、その頃のリスペクト精神が今も色濃く受け継がれているのだと思います。

19年のW杯日本大会を観戦し、ラグビーはほかのスポーツとひと味違うぞ、と感じた人が多かったのかもしれません。