「48キロの細身に修正された、最悪」と嘆く女性
こうした状況は、自分のルックスにひどい不満を抱えてしまう「身体醜形障害」を招くとの指摘がある。テック・クランチによると、別の女性ユーザーは、AIに体型を勝手に修正された。出力結果はどれも実際より細身の姿だった。
女性はTikTokへの投稿を通じ、「AIフィルターが本当に(悪い意味で)やってくれた」「バズっているAI顔写真フィルター(Remini)が、105ポンド(約48キロ)にしてくれて…最悪」と憤る。現在の体型への自信を失わせるような修正だ。
人種問題も巻き起こした。米マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の共同プログラムでコンピューター・サイエンスを専攻する大学院生のロナ・ワンさんは、AI顔写真からショックを受けたユーザーのひとりだ。アジア系のルックスの彼女だが、Playgroundと呼ばれる生成AIを通じてAI顔写真を試したところ、出てきた姿は白人の肌にブルーの瞳に改変されていた。
X(旧Twitter)への投稿を通じ、「AI編集で(ビジネス向けソーシャルメディアの)LinkedInのプロフィール画像を作ろうとしたら、こんなものができた(しかめ面の絵文字)」と不満を露わにしている。白人の姿を「より美しい」と判断してしまうことは、一般にAIが持つバイアスのひとつであり、大きな議論の種となっている。
利用が広がるAI顔写真、加工はどこまで許されるのか
数々の問題を抱えるAI顔写真は、現時点で完璧ではない。だが、用途は今後広がっていく可能性があるだろう。興味本位で生成したり、個人のソーシャルメディアのプロフィール画像に使ったりという範疇を超え、すでに履歴書や職場への提出にも実際に使われ始めている。AI顔写真で済ませることがいつか標準的になってゆくのかもしれない。
当然、プロの写真家が撮影する本格的な顔写真よりは、完成度で劣る。だが、若い求職者たちが求めているのは、品質と価格のバランスだ。まだ学生で実入りも少ない場合には、就職活動を助ける強力なツールになるだろう。
学生に限らず社会人でも、精神的な利点から気軽に利用しやすい。自撮りや証明写真では、何度もカメラの前で撮り直し、いまひとつ決まらない表情に悩むことも多い。AIにいくつかのパターンを生成してもらい、気に入ったものを選ぶほうが、ずっと気軽に取り組むことができる。
とくに証明写真機と比較すれば、利便性の高さは歴然だ。街角の写真機では、緊張を煽るカウントダウンと共に引きつった笑顔が撮影され、やり直しもせいぜい1回までしか許されない。それならば、自然な笑顔で写った手持ちの写真をもとに、背景と服装だけをビジネスにふさわしいスタイルに変更したいと考えるのは自然なことだ。自宅のソファに掛けながら手軽に生成を済ませたあとは、履歴書の執筆や面接の練習など、より有意義なタスクに時間を回すことができる。
もちろん注意点はある。加工が行き過ぎては、証明写真が用をなさなくなってしまう。また、パスポート写真などに利用してしまうと、法的な問題を生じかねない。AI顔写真はどこまで加工が認められるのか、さらなる議論が必要になるだろう。