選手は年間40回も試合前スピーチを聞く
選手が多少気抜けしているときなど、今もドレッシングルームで気迫のこもった激しいスピーチをしなければならない場合もあるが、90%は落ち着いたスピーチだ。試合までの時間は選手がめいめいのやり方で過ごすのに任せる。ヘッドフォンで音楽を聴くのを好む選手もいれば、もっと静かに自らの決まりに従って気持ちを整えたい選手もいる。
選手の身になって考えてみよう。彼らは年間約35回から40回の試合前スピーチを聞く。だから毎回、感情を刺激しようとしてもうまくいかない。別な方法を見つけて試合に向かう手助けをしたほうがいい。
試合前スピーチを行うタイミングは、実は終わったばかりの試合直後のほうがいいと内心思っている。選手にアイデアをあれこれ仕込み始めるタイミングだからだ。次の試合までの1週間絶え間なく言い続ければ、試合直前ではなく週の早い段階で感情が高まるかもしれない。
現役時代にエディー氏が聞いた「文学的スピーチ」
ランドウィック時代にコーチのジェフ・セイルがした文学的な試合前スピーチを思い出す。
中心選手たちの多くがワラビーズに参加し抜けていたため、我々は厳しい時期を経験していた。リーグの首位、シドニーユニバーシティーFCがランドウィックを破るというのがおおかたの予想だ。ニック・ファー=ジョーンズ、ピーター・フィッツシモンズなどオーストラリアラグビーの特権階級に属する選手を擁していたからだ。片やランドウィックの労働者階級の出である我々は大きなプレッシャーを感じていた。
ところが、ある晴れた日にセイルが言った。「今日、太陽の日差しが君たちの背中に降り注いでいる」
そこでいったん言葉を切り、ドレッシングルームにいる我々全員を見てから続ける。「私は情熱を持って本の1ページ目をあけた。2ページ目も情熱を持ってあけた。最後のページも情熱を持ってあけた」
彼が言ったのはそれだけだったが、単純明快なメッセージは、背中に感じる日差しのように気分を上げ、どんなふうにプレーすればいいのかをしっかり伝えていた。グラウンドに出た我々は、シドニーユニを叩きのめした。ジェフのスピーチは見事に選手を奮い立たせたのだ。とは言うものの、覚えているのは勝ったときのことだけだ。