引きこもり歴や適応障害がある人材を採用する会社

「INNOVA初台」にも社員の独自性を尊重する雰囲気がある。ここでは社員の能力について「異能」という表現を用いている。異能とは「人より優れた能力、一風変わった独特な能力」を意味する。

「INNOVA初台」はソフトウェアテストサービスやサイバーセキュリティサービスを提供するデジタルハーツグループの特例子会社「デジタルハーツプラス」の拠点として2021年に開設された。「デジタルハーツプラス」の従業員は48名で、うち障害者手帳保持者は34名(精神・発達33名、身体1名)。「INNOVA初台」の従業員は10名で手帳保持者は4名(精神障害)、手帳はないが東京都のソーシャルファーム(※)の困難性認定を受けているのは3名だ(2023年7月現在)。

※ソーシャルファームは「社会的企業」と訳され、ヨーロッパを中心に広がっている活動組織。就労に困難を抱える人が必要なサポートを受け、ほかの従業員と一緒に働く企業や団体のこと

写真提供=デジタルハーツプラス
INNOVA初台の落ち着いた雰囲気の執務スペース。

筆者が訪問したこのオフィスは抑えめのカラーで統一された空間で、勤務するスタッフの状況に合わせてレイアウトが変更できるようすべて可動式のオフィス家具が配置されている。一般のオフィスと比べると全体照明がやや暗い印象だが、明るさをあえて落としている雰囲気が適度に気分を落ち着かせてくれる。

同社では引きこもり歴や適応障害(ストレスが原因でさまざまな精神面・身体面での症状が起きる病気)がある人などを採用し、サイバーセキュリティ人材として「戦力化」することを目指す。

採用された社員のなかには、ゲームを得意とする、いわゆる「ゲーマー」もいる。

ゲーマーが持つスキル

興味深い調査結果がある。7カ国(米英独仏星豪日)のセキュリティ専門家・マネジャー約1000名を対象に調査したところ(米マカフィー、2018年4月)、「ゲーマーはサイバーセキュリティに必要なスキルを備えている」との回答が92%に上った。

同社の業務にはゲームやアプリ、ウェブサイトを動かし、バグ(不具合)がないか確認する作業があり、ゲーマーの異能が戦力となるのだ。巧妙化するサイバー攻撃は近年中小企業へとターゲットが拡大しているが、被害の自覚が無いケースや、対策のコストを十分に捻出できない中小企業が少なくない。廉価に対応できる人材の量が求められており、採用した人材を「戦力化」することを掲げているのはこうした背景もある。