男性の非正規雇用が激増している

そして、日本では近年、男性の非正規雇用が急激に増加している。

図表3は、パートタイム労働者のうち男性に絞って主要先進国と比較したものである。これを見ると日本の男性のパートタイム労働者はこの15年で激増しているのがわかる。

出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

もちろん、パートタイム労働者だけではなく、非正規雇用に枠を広げると、その人数は非常に多くなる。

現在、日本では働く人の約4割が非正規雇用である。その中で男性は、700万人近くもいる。20年前よりも倍増したのだ。つまり、結婚できない男性がこの20年間で300万人以上も増加したようなものである。

現在の日本は、世界に例を見ないようなスピードで少子高齢化が進んでいる。このままでは、日本が衰退していくのは目に見えている。どんなに経済成長をしたって、子どもの数が減っていけば、国力が減退するのは避けられない。

いまの日本にとって、経済成長よりもなによりも、少子高齢化を防がなければならないはずだ。

「非正規雇用が増えれば、結婚できない若者が増え、少子高齢化が加速する」

これは、理論的にも当然のことであり、データにもはっきり表れていることである。

なのに、なぜ政治家や官僚はまったく何の手も打たなかったのか、不思議でならない。

なぜ日本の非正規雇用者数が近年激増したかというと、政界と財界がそれを推進したからである。

バブル崩壊後、財界は「雇用の流動化」と称して、非正規雇用を増やす方針を打ち出した。たとえば1995年、日経連(現在の経団連の前身団体の一つ)は「新時代の“日本的経営”」として、「不景気を乗り切るために雇用の流動化」を提唱した。

こんなことを30年も続けたら国家が破綻しかかって当然

「雇用の流動化」というと聞こえはいいが、要は「いつでも首を切れて、賃金も安い非正規社員を増やせるような雇用ルールにして、人件費を抑制させてくれ」ということである。

これに対し政府は、財界の動きを抑えるどころか逆に後押しをした。

1999年には、労働者派遣法を改正した。それまで26業種に限定されていた派遣労働可能業種を、一部を除いて全面解禁したのだ。

さらに2004年にも、同法は改正され、1999年改正では除外となっていた製造業も解禁された。これで、ほとんどの産業で派遣労働が可能になった。

同法の改正が、非正規雇用を増やしたことは、データにもはっきり出ている。90年代半ばまでは20%程度だった非正規雇用の割合が、98年から急激に上昇し、現在では30%を大きく超えている。

また裁量労働制などの導入で、事実上のサービス残業を激増させたのである。

労働者の生活を極限まで切り詰めさせて、一部の大企業、富裕層の富を増大させてきたのがバブル崩壊後の日本である。こんなことを30年も続けていれば、国家が破綻しかかって当然である。

現在、岸田政権は、さすがにこのことに気づいて労働環境の改善に取り組もうとはしている。しかし、日本衰退のスピードに比べると、あまりに遅すぎるというのが著者の気持ちである。