なぜ日本は極端に無痛分娩が少ないのか
「情報公開に積極的に取り組んでいる無痛分娩取扱施設」を検索し地域別に見てみると、北海道7、東北7、関東115(うち東京都49)、甲信越・北陸7、東海55(うち愛知県35)、関西55(うち大阪府22)、中国15、四国7、九州・沖縄39(うち福岡県17)となっています。
また県内に該当する施設が存在しない県も、岩手県、新潟県、福井県、山梨県、高知県と複数あることがわかりました。もちろんこのサイトで情報公開されていなくとも無痛分娩を行っている医療機関もあるとのことですが、少なくとも、都市部に無痛分娩実施施設がかなり偏在している現状があるのではないでしょうか。
なぜ欧米に比べてわが国では、極端に無痛分娩が少ないのでしょうか。先ほど述べた「母親たるもの出産の痛みくらいは我慢して当然」という「非科学的精神論」がいまだに蔓延っている現状もあるでしょうが、それに加えて経済的理由も大いにありうることと思います。
公的保険制度のない米国は別ですが、他のG7諸国では出産にかかる費用の自己負担分をゼロにすべく国レベルで動いてきました。そしてその費用には無痛分娩にかかる部分も含まれているのですが、日本の場合、出産育児一時金があるとはいえ、昨今の分娩費用の増加によって、地域によっては無痛でない通常の分娩でさえ“足が出てしまう”ケースもあると言われています。このような現状のもとで、無痛分娩を選択肢とすることには、経済的なハードルがあると言えるでしょう。
低所得者の妊婦に“優しくない”現状がある
さらに、無痛分娩施設に極端な地域偏在があることから推測されるのは、医師とくに麻酔医の不足です。ご存じのとおり、わが国における医師不足、医師数の地域偏在問題が実在する状況では、必然的に産科医の数にも地域差が生じます。さらに無痛分娩には硬膜外麻酔という処置を要するため、麻酔科医もしくはこの麻酔手技に習熟した産科医が少ない地域では、安全な無痛分娩を行うことは極めて困難です。
このように、日本においては無痛分娩もさることながら、そもそも出産について欧州と比較しても、“優しくない”風土と社会が現存していると言えそうです。そしてそれだけではありません。妊産婦さんのうちでも、とくに「低所得者」に“優しくない”現状があるのです。
先述したように、出産にかかる費用には地域差があるため、出産費用が出産育児一時金よりも安価の場合にはたとえ高所得者であっても余剰が得られるケースがある一方で、出産費用が高額の地域に住む低所得者の場合では、持ち出しの自己負担が大きくのしかかるという現状も、少子化対策に際して解決せねばなりません。
そのような現状のなか、岸田政権は「異次元の少子化対策」の一環として2026年度をメドに、出産費用について保険適用の導入に動き出しました。そして導入した場合でも、健康保険でカバーされない自己負担分が生じることのないよう対処する意向も、首相みずから国会で示しています。