マイクロファイナンスの誤ったコピーが生まれる理由

――グラミンの仕組みは世界中に広まりました。しかし、理念と異なり、利益を求める動きも出ています。

それはグラミン銀行の適切な解釈とは言えません。是正しなければなりません。

コピーの仕方を間違えたのです。私が作った車のコピー商品を作ったら、前には進まず後退してしまうような車ができてしまった――というところです。つまり設計に欠陥があるわけではありません。組み立てが間違っていたのです。となれば、設計書に立ち返って正しい方法で組み立てなければなりません。

そういうことをする人々は辛抱が足らず、マイクロファイナンスの何たるかをきちんと学ぶことができなかったのでしょう。

――グラミン銀行からも追放されてしまいました。

政府は私がグラミン銀行のトップであることを快く思わず、グラミン銀行から私を追い出しました。たぶん、(総裁の座にいると)私が非常に強い政治力を手にするからでしょう。私はバングラデシュの非常に多くの家族、貧しい家族たちとつながりを持っていますからね。

大切なのは資本主義のイメージを変えること

――とても残念なことです。ユヌス博士は貧困をはじめとするさまざまな社会課題に対する解決方法として、資本主義のビジネスの仕組みを応用しながら「損失ゼロ、配当ゼロ」で運営する「ソーシャル・ビジネス」を提唱していますが、それも十分に広がっているとは思えません。広がりを阻むものはなんでしょうか。

私としては広がりつつあると思いたい。みんなが私の言うことに耳を傾けてくれていると思いたいですね。

問題は、人でもなければ政府の政策でもなくシステムにあると私は考えます。システムはいわゆる「資本主義」のあり方のイメージそのものです。だからこそ資本主義はそういうやり方で機能するのです。底辺から金やリソースを奪っててっぺんに送り、金儲けのタネにするというやり方で。

ビジネスのコンセプトの土台には、経済学における人間についての定義があります。経済学では人間は、「個人的な利害に突き動かされる存在」と定義されます。私欲に突き動かされるものだというわけです。

これは経済学の基本ですが、私に言わせれば人間についての誤った解釈です。人は利他のためにも行動します。そうでなければ世界中に慈善団体が存在する理由が説明できません。

現在の文明は私たちを崖っぷちに追い込んでいます。この星の上で私たち人類が生き残るための時間はあまり残されていません。この文明に殺されてしまう前に、私たちは新しい文明を創らなければならないのです。

この文明は利益の最大化に基礎を置き、私たちが人の命に目を向けなくなるようしむけました。私たちはカネの依存症になってしまったのです。だから分かち合いの精神にもとづく、新しい文明を建設するのは急務です。(後編につづく)

(構成=村井裕美)
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