コロナ禍で広がった格差
――ユヌス博士は貧困層に無担保で少額融資する「マイクロクレジット」を創案し、2006年にはノーベル平和賞を受賞されました。一方、依然として世界では経済格差が広がりつつあります(※1)。
※1:世界不平等研究所の「世界不平等レポート2022」では、世界の上位1%の富裕層が世界の富の約40%を保有している(2021年)。前回のレポートでは上位1%の富裕層が占める富の割合は22%(2016年)で、格差が拡大している。
パンデミックは全世界を襲い、経済システム全体の動きを止めました。
当時、各国の政府はさまざまな救済策を打ち出し、巨額の資金を投じて経済のエンジンを再始動させようとしました。私はそれに対し、政府や企業に「エンジンを再始動させないで、元に戻らないで」と訴えました。私たちが作った経済のマシンは、貧困や環境破壊、気候変動などさまざまな問題をもたらしており、後戻りはいただけません。
パンデミックのおかげでこれまでの経済システムを止めることができたのはラッキーでした。新しいマシンを設計し、これまでとは違ったやり方でスタートを切る好機です。私たち自身がつくり出したすべての悪、すべての困難を是正し、これまでとは違ったやり方でつくることができるのですから。
そんな中、人々を救うべく登場したのが、新型コロナウイルスのワクチンでした。私たちは世界に対し、ワクチンに知的財産権を認めるべきではないと呼びかけました。(ワクチンに関する情報は)公開されるべきで、どの国も自分たちで製造して誰もが接種を受けられるようにすべきだと。でも、なかなか耳を貸してもらえませんでした。
そして、少数の国だけがワクチンを独り占めしました。ワクチンは非常に高価だったうえ、世界のワクチン輸出の80%を10カ国が占めていると言われる状況になったのです。
今の経済システムはこのように振る舞うのです。「生命」と「利益」のどちらを選ぶかという点で非常に残酷です。多くの人が命を落としたのに、利益が優先されました。先進国の製薬会社は多額の利益を手にし、ワクチンの独占を続けました。
そしてあなたの言う通り、パンデミックの間に数多くの人々がさらに貧しくなりました。貧しくなかった人々まで貧しくなり、貧困とはかなり離れたところにいた人々も、貧困に陥りました。数多くの人々が苦しみました。でも同時期に、てっぺんにいるごく少数の人々は巨額の富を手にしました。経済システムの働きが、いかに醜悪か分かるというものです。