諸悪の根源は「銀行」

――システムはどうしたら変えられるのでしょうか。

例えば水をくみ上げるマシンがあるとします。水を低いところから高いところにくみ上げるだけのものです。

経済学者ムハマド・ユヌス博士
撮影=堀隆弘
経済学者ムハマド・ユヌス博士

でもニーズが、高いところに水をくみ上げるのではなく、低い方に流すことにある場合は、どうすればいいでしょうか? そう、逆に動かせばすべての水は低い方に流れますよね。現行のマシン、つまりいわゆる経済システムは、(富を)上の方に送るように作られています。その逆のマシン、つまり(富を)下の方に送ったり、下だけでなく全体に分配するようなマシンがあればいいのです。

ではマシンを設計し直すにはどうしたらいいか。

(例えば)速く走る乗り物が必要とされているとしましょう。あなたはいろいろ考えた末、馬車を使うことにします。ただし、馬は使いたくありません。そこで小さな機械を作って馬車の中に設置します。そうすると、馬なしでも馬車は乗り物として機能するようになります。マシンを設計するとはそういうことなのです。

だからまず、目的は何かを定義するのです。目的が決まったら、あとは一生懸命にマシンを設計する。誰にでもできることです。

例えば私は、(人々に富が行き渡らないという)問題の元凶は銀行だと考えました。だから銀行を再設計し、貧しい人々に金を貸すことのできる銀行をつくりました。金融関係者は「グラミン銀行のやっていることはすばらしい」と口を揃えて言うのですが、従来の銀行のあり方を変えようとする人はいません。なぜでしょうか。それでみんなが幸せになるなら、どの銀行もやるべきなのに。

法律が問題なら法律を変えればいい

何が問題なのでしょうか? よく言われるのが「銀行法で許されていないから」というものです。ならば銀行法を変え、すべての人に門戸を開き、みんなに金を貸すようにすればいいのです。

相手を問わず資金を貸し出すのは、金をドブに捨てることでもなければ、社会福祉プログラムでもありません。これはビジネスです。貸したお金は利子を付けて返してもらい、必要経費はそこから出し、利益も上げる。(他の銀行と)変わるところはありません。なのに、それでも無理だと言うのです。銀行への規制は非常に厳しいからできないと。

私たちは日本と同様にアメリカでもマイクロファイナンスの事業を行っています。NGO(非政府組織)として運営しているのですが、融資額は年に10億ドルを超えます。融資はきちんと返済されていて、自立した経営ができています。それでも銀行にはなれないのです。

理由は、私たちがやっているようなことを銀行法が認めていないからです。つまり、これは法律の問題であり、法律は変えなければなりません。解決法は分かっているわけです。