ようやく注目されつつある「感覚過敏/鈍麻」

Kさんは「感覚過敏」と呼ばれる感覚特性に悩まされているひとりである。なかでも、太陽の光で頭痛がする、スマホやパソコンの画面の光が目に刺さる感じで痛いといった症状を代表とする「視覚過敏」を強く持っているため、太陽光や蛍光灯だけでなく、チカチカとした原色の強いテレビ番組、スマホの画面にも気をつけているという。

このKさんのように“まぶしさ”で体調を崩す人をふくめ、現在、多くの人が自身の“困りごと”として、この「感覚過敏」を認識しつつある。「感覚過敏」とは、感覚特性のひとつで、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの感覚が過敏になり、日常生活に困難を抱える状態のことをいう。

当然、「感覚」には個人差があり、本来ならは一人ひとり異なるもの。しかし、人は社会の中で生きているため「多くの人はこう感じる」という“平均値”から設定された環境や仕組みの中での生活を余儀なくされている。しかし、自分の「感覚」がこの“平均値”から大きく離れていたとき、少なからず、困りごとが発生したり、周りの人間が苦もなく行っていることが努力しないとできない、といったハードルを感じるというワケだ。

この“平均値”から離れた感覚の特性を「感覚過敏」「感覚鈍麻」といい、くわしくはいまだ研究中であるものの、刺激に対する脳機能の働きや疾患、個人的な経験など、さまざまな原因で起きると考えられている。

制服のブレザーは鉛のように重く感じた

感覚過敏の当事者で、現在は「感覚過敏研究所」所長を務める加藤路瑛さんも、先述したKさんと同じく、学校で窓際の席になったとき「まぶしくて授業に集中できなかった。というより、座っているだけで精一杯だったかもしれない」と、過去の体験を振り返る。

また、加藤さんの場合は「人に触れられることが苦手」「服のタグ、縫い目などに痛みや不快感を抱き、快適に着られる衣服が少ない」などが代表的な症状となる「触覚過敏」を強く持っているため、今でも、着用できる服は限られている。

「そもそも、服の生地が痛いんです。ズボンはまるでサンドペーパーのようで、太ももを削られるかのよう。制服のブレザーも、まるで鉛のように重かった。せっかく買ってもらった、けっして安くはない学校指定のポロシャツも、結局“痛み”で着ることができませんでした」。

写真=iStock.com/Manuta
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ずっと“服とは痛いもので、それを人間は我慢して着ているもの”だと思っていた加藤さんだが、「みんなは痛くないんだ!」と知ったのは中学1年生のとき。「感覚過敏」という言葉に出会ってからだった。