「感覚過敏」は、どんな人にも起こり得る
加藤さんが主宰する「感覚過敏研究所」で医療アドバイザーを務める児童精神科医の黒川駿哉氏も、「児童精神科医として、感覚過敏や鈍麻が日常生活に大きな影響を与えていることを見てきた」という。
黒川医師曰く、「これら(感覚過敏/鈍麻)は、感覚の入力や統合、感情や記憶、強調運動などが複雑に絡み合った結果です。しかし、多くの人にとってこれは生まれつきの『デフォルト設定』で、自覚されにくいもの。感覚過敏や鈍麻は、病気だけでなく『定型発達』の人々にも見られます。つまり、これは『異常』ではなく、人間の多様性の一部です」とのこと。
もちろん、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、知的発達症(ID)、発達性協調運動症(DCD)、不安症、うつ病、PTSDといった感覚過敏や鈍麻と親和性の高い医学的診断名もあるが、「これらの診断名がつくことは『異常である』というレッテルが貼られることではありません」と黒川医師は強く訴える。
また、くり返すが、感覚過敏や鈍麻は「定型発達」にもみられる特性であり、ごく一般的な人でも抱えうる「人間の多様性の一部」なのだ。
人によって「心地良い環境」は異なる
また、冒頭のKさんや加藤さんの“まぶしさ”について、黒川医師は以下のように説明する。
「私たちの脳は、『何かを見る』ために、常に膨大な量の情報処理を行なっています。視覚の受容器である『目』から入った情報は、眼球内の複雑な仕組みを経て電気信号となり、視神経を通り、最終的に脳の視覚野と呼ばれる部位に運ばれ、色、形、方向、動きなどを判断。さらに、受け取った情報をこれまでの経験や記憶と結び付けて判断する、ということまで瞬時に行なっています」
「このように『見る』こと一つをとっても、大量かつ複雑な情報処理が行われており、人によって情報処理のしかたにバリエーションが生まれることも。そのため、一般的には『よい環境』と思われている環境であっても、感覚特性のある人には心地よい環境ではないかもしれません。たとえば、視覚過敏がある人が明るい窓際の席に座ると、光をことさら強く感じ、まぶしくて目が開けられなかったり、体調が悪くなったりする場合もあります」