「家族がいるから孤独ではない」わけではない

そもそも人は、誰もが「孤独な状態」というのを常に体験しています。

そうなんです、あなただけでなく、多くの友人や家族に囲まれたあの人さえも。そして私も。

たとえば先日、私は人との待ち合わせの時間を間違え、1時間ほど早く喫茶店に着いてしまったことがありました。当然ながら、あと1時間待たないと相手はやって来ません。その間、ずっと一人で過ごすことになりますから、この状態は、孤独であることにほかなりません。

しかし孤独ではあるものの、このとき私は「孤独感」を抱くことはありませんでした。

資料を読んだり、書き物をしたりと、やるべきことはたくさんあるし、お店の人だって私を追い出そうとしているわけではないからです。

つまり、物理的に人と人との距離が隔てられた「孤独な状態であること」と、心に「孤独感を抱いている状態」は、根本的に違うのです。

たとえば、家族が数人揃っている中で、一人、父親だけがみんなの会話に入れず、疎外感を覚えたなら、父親は家族と同じ空間にいるにもかかわらず、孤独を感じはじめるでしょう。この「孤独感を抱いた状態」を、英語で「アイソレーション」といいます。

こんなふうに、周りに近しい人がいて、“環境的には孤独ではないけれど、感情的には孤独感に苦しんでいる”ということは、いくらでもあるわけです。

つまり、私たちを悩ませるのは、「孤独」という環境ではなく、本当は「孤独感」なのだ、ということがわかると思います。

「孤独」と「孤独感」は、まったく別物

つまり、一人だけどんなに遠く離れた孤独な状態に置かれたとしても、孤独感を持たないような工夫さえできれば、人は思いのほか、快適に楽しく暮らしていけるのです。

そんなのは空理空論だと思われるかもしれませんが、現に70代、80代、90代で一人暮らしをしながらも、毎日いきいきと楽しく暮らしている人はいくらでもいらっしゃいます。

だから、彼らの「孤独感」への対処のコツを知れば、あなたも淋しさから、生きることを辛く感じて心を病んでしまうようなことは避けられるでしょう。

私だって数年前に妻を亡くしてからは、仕事がないときは一日中、誰とも会話をしない日はいくらでもあるのです。それでも孤独感を持ったことなど、最近はほとんどありません。

逆に、家族に囲まれていて、お金にも仕事にも恵まれて誰もが羨むような環境にいながら、孤独感にさいなまれて心を病み、自ら命を絶ってしまう人は、いくらでもいます。

本書では、人がそうした状況に陥ってしまう理由も解き明かしながら、「どうすれば孤独感を持たずに人生を過ごすことができるか」――そのことを物事や人間関係についての考え方といった心理面と、腸内環境に関する最新の知見を含めた食生活や健康管理といった医学的側面の2方向から、科学的に考えていきます。

「孤独のことなのに、腸内環境?」

はい、腸内環境です。

写真=iStock.com/sofiana indriani
※写真はイメージです

これまで、「孤独」の問題について心理学の面から解決しようと、多くの医師や心理カウンセラーが試みてきましたが、本書で紹介するような「腸内細菌の改善」によって孤独に対抗するという方法は、ほとんど考えられてきませんでした。

けれども私は、脳や腸の専門医たちとチームを組んで研究してきた結果、孤独感が、その人の普段の考え方や人間関係からもたらされるだけではなく、「食習慣」などにも起因することを突き止めました。

本書では、その研究成果もふんだんに披露していきます。