交際してすぐ、国際結婚の手続きを始めた
夫A氏を紹介したのは、その店に友人に連れられて飲みに来ていたA氏の兄だった。イラン人で日本人妻のいる兄は、店内全員が友達のような超明るい雰囲気を楽しんでいた。兄は、
「弟がいるんだけど、すごく真面目で、あまり女性経験がないみたいで……」
と、梓さんに言った。それで紹介されることになったのだが、兄が事前に、「(梓さんが)夜の店でバイトをしているのは、弟が純粋で真面目だから伏せておこう」
と提案したことから、A氏が本当に真面目な人だとわかり、梓さんはかえって安心した。
2人が兄の紹介で出逢った時から結婚前提のおつきあいが始まり、すぐに国際結婚の手続きが始まった。交際期間はなく、国際結婚の準備が整ったら即入籍という流れになっていた。本当にそれでよかったのだろうか。
「親を安心させたいというのが一番大きかったですね。あとは、シェアハウスで暮らしていたので、2人で暮らせば家賃がちょっと抑えられるんじゃないかって思ったのも正直なところ。何回会っても手もつながないし、そんな雰囲気にもならないし、真面目なこの人だったら、ママとお兄さんの紹介でもあるし、結婚しても大丈夫そうかなって思ってたんです」
梓さんは淡々と言った。
経験してみるなら「まったく知らない人がいい」
梓さんは、このままずっと処女のまま一生を終えるつもりだろうか。周りが普通のようにしていることを、たとえば「経験してみたい」とか思わないのだろうか。
梓さんは顎に手をやり、真顔で考えてから言った。
「してみたい……?」
そう言ったきり、ちょっと考える。
「してみたいというか、できないということに、ちょっと焦りは感じます。できたほうがいいのかな? とは思います。ただ……」
と、ここで言葉を切ってまた考えた。
「それがしたいかって言われたら、ちょっと違うかもしれないです。もし、(する)相手ができたなら、その人は、私のまったく知らない人がいいです。ずっとしないままできている人とは、なかなか難しいかなと思うんです」