夫のような人を見つけるのは、本当に難しい

「しょうがないってことになっちゃうんですよね。だって、夫婦らしいことをしてないので。そうなったら、夫の希望を受け入れてあげるしかないんですよね」

皮肉めいてもいない、あきらめでもない、怒りでもない、寂しげでもない。梓さんは分析するように冷静に言った。今から肉体関係を結び「心身共に夫婦」らしく生きていく方法もあると思うのだが、梓さんは自分らしく生きていきたいのか、一般の夫婦らしく生きていきたいのか、どちらをこれからの将来に向けて選んで歩んでいくのだろうか。

「今のままがすごい居心地がいいんです。私は今のままがいいと思っていて、それが自分らしい生き方だと思ってるんです」

梓さんはすぐに答えた。

「皆がしてることなのに、30歳を超えても(男性)経験がないっていうのは、ちょっと心配というか、ちょっとだけ不安はあります。でも、今の夫だから今の生活が居心地いいのであって、もし夫と別れて新しい出逢いを探すってなったら、そのほうが大変。今の夫と同じような人を見つけるのは、本当に難しいと思います」

向かい合ってコーヒーカップを持っているカップルの手元
写真=iStock.com/AntonioGuillem
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価値観が一致する「最強の夫婦」

目からうろこのような梓さんの発言に、私はハッとした。

私は普通にしている皆の立場から、していない人に話を聞いてきたが、梓さんにとっては、しない相手を見つけるほうが大変と言う。今の夫の代わりはいないのだ。

「私は今のままが一番……」

梓さんのふんわりした顔に笑みが浮かんだ。それはよく理解できた。しかし、性欲というものは時に魔物に変身する。自分の夫の性欲のことを心配するように、梓さん自身は体の欲求をどう受け止めているのだろうか。

「体の欲求? 私、ないんです、興奮するとかも。気持ち悪いとも思わないし、したいとも思わない。うずくって感覚もない。(性的欲求に対しての)意識はあんまりないかもしれないです。男の人を見て、顔がカッコいいなと思うことはあるんですが、その程度です」

スマホの待ち受けは韓国のアーティストだった。梓さんのその欲求のなさは、夫と出逢う前からずっと変わっていない。だからこそ、夫はそういう梓さんを選び結婚したのではないか――話を聞くうち、価値観が一致する最強の夫婦に私には思えてきた。