新型コロナへの「劇的な効果」は誤認

ほかに「臨床試験で使われたイベルメクチンの用量が少なかったのだ」という反論もあります。北里の治験が開始された頃はイベルメクチン〈0.2mg/kgを1日(単回)投与〉で効くと吹聴されていましたが、だんだん必要量が増えていきました。興和の臨床試験では前述の米国団体の推奨量〈0.3〜0.4mg/kgを3日投与〉でしたが、それでも効果は観察できませんでした。

イベルメクチンは比較的安全な薬ですが、それは寄生虫疾患に対して低用量で使った場合の話です。例えば、日本で標準医療となっている疥癬治療におけるイベルメクチンの投与量は〈0.2mg/kgを単回、または2週間空けて2回投与〉です。高用量での安全性については十分な情報はありません。たくさん飲まないと効かないのであれば、これまで言われていたイベルメクチンの利点は失われます。

それでも効けばまだいいのですが、1200人が参加した海外のランダム化比較試験では、さらに高用量のイベルメクチン「0.6mg/kgを6日投与」したにもかかわらず、有意差を観察できませんでした(※8)。ちなみに、この研究においては、発症して2~3日後の患者に限定したサブグループ解析も行われましたが、やはり有意差はありませんでした。発症してすぐに飲んでも効くとは言えません。

イベルメクチンの有効性を示したランダム化比較試験もありますが、その中には品質の低い研究や不正行為が指摘された研究も存在します。もしイベルメクチンが本当に新型コロナに効果があるなら質の高い研究でも有効性が示されるはずですが、実際はその逆です。不正疑いのある研究ではきわめて高い有効性を示した一方、質の高い研究では有効性は示されませんでした(※9)

※8 Effect of Higher-Dose Ivermectin for 6 Days vs Placebo on Time to Sustained Recovery in Outpatients With COVID-19: A Randomized Clinical Trial
※9 Ivermectin for COVID-19: Addressing Potential Bias and Medical Fraud

効果が確認できなければ使用をやめたらいい

これらの結果から、イベルメクチンの「劇的な効果」は誤認であったといえます。せめて症例報告でもあれば何がしかの検証は可能なのですが、日本で劇的な効果を主張してきた臨床医は、残念なことに症例報告や学会発表や医学誌への論文投稿などはせず、一般メディアやYouTubeなどで情報発信をするのみです。

イベルメクチンは安価で比較的安全な薬ですから、もしも新型コロナに効果があれば人類にとって大きな福音になったことでしょう。ただ、イベルメクチンは抗寄生虫薬ですから、新型コロナに効かなくても仕方がありません。

もともと医療は不確実なもの。当初は劇的な効果が期待された薬や治療法でも、検証の結果、まったく効果がないと判明することはよくあります。信頼できる臨床試験の結果が出そろっても効果が確認できなければ、日本発の薬だからとこだわったり、意固地になったり、執着したりするのではなく、ただ使用をやめればいいだけです。その薬や治療法に期待を寄せていたからといって「研究の仕方が悪い」「権力者の陰謀によって潰された」といった誤った考えに陥らないようにしたいものです。

写真=iStock.com/Anastasiia_Guseva
※写真はイメージです

そして効果の裏付けがある抗ウイルス薬やワクチンを否定したり、イベルメクチンを個人輸入して自己判断で使ったり、家畜用のイベルメクチンを使ったり、イベルメクチンには副作用がないと嘘をついたり、イベルメクチンが末期がんにも効くなどと言うのはデマを広める行為ですし、ご自身のみならず他人にも健康被害が出かねないのでやめましょう。

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