ランダム化比較試験でも「効くとは言えない」

以上のようなものに比べ、同じ国の同じ時点において〈イベルメクチンを投与された個人〉と〈イベルメクチンを投与されなかった個人〉を比較した研究のほうが、エビデンスレベルは高いといえます。とくに薬の投与以外の要因がなるべく同じになるように、投与群と非投与群をランダムに分ける「ランダム化比較試験」はエビデンスレベルが高いとされています。日本でも、イベルメクチンについて2つのランダム化比較試験が行われました。

一つは北里大学が行った医師主導治験です(※6)。軽症の新型コロナ患者200人超を〈イベルメクチン単回投与群〉と〈プラセボ(偽薬)投与群〉に分けて、PCR陰性化までの時間を比較しましたが、まったく差はありませんでした。

もう一つは興和株式会社が行った第三相臨床試験で、この原稿を書いている時点ではまだ論文化されていませんが、プレスリリースが発表されています(※7)。軽症の新型コロナ患者1000人超を〈イベルメクチンを3日間投与する群〉と〈プラセボを3日間投与する群〉に分けて、臨床症状が改善傾向に至るまでの時間を比較しましたが、有意差はありませんでした。つまり、残念ながら、イベルメクチンは新型コロナに「効くとは言えない」という結果です。

※6 Efficacy and safety of single-dose ivermectin in mild-to-moderate COVID-19: the double-blind, randomized, placebo-controlled CORVETTE-01 trial
※7 興和/新型コロナウイルス感染症患者を対象とした「K-237」(イベルメクチン)の第Ⅲ相臨床試験結果に関するお知らせ 

イベルメクチンのシールが貼られた薬のパッケージ
写真=iStock.com/RapidEye
※写真はイメージです

「効かないとは言いきれない」と言われても

それでもイベルメクチンの支持者は、「イベルメクチンが効くとは言えないという結果だったとしても、効かないとも言い切れないだろう」と主張するでしょう。それはその通りで、臨床試験の対象人数を増やしたり、投与条件を変えたりすれば、有意差が観察できるかもしれません。

とはいえ、「イベルメクチンは新型コロナの特効薬ではない」と断言できます。仮に効果があったとしても、日本で行われたランダム化比較試験では検出できないぐらい効果が小さいか、または効果を発揮する条件が厳しいか、だからです。一部の臨床医は「1回飲むだけで翌日には効く」などとイベルメクチンの劇的な効果を主張していました。もしそんなに劇的な効果が事実だとすれば、1000人規模の臨床試験で有意差が出ないなんてことはありえないでしょう。

次に「新型コロナの発症後、すぐに飲まないと効かないのだ」という反論が予想できます。抗ウイルス薬は発症して内服までの時間が短いほど効きやすいのは事実です。でも、患者さんすべてが発症後すぐに病院を受診できるわけではありませんから、少しでも投与の時間が遅れたら効果がなくなるような薬はあまり使えません。それに臨床試験でも、発症してから薬を内服するまでの時間が短い患者さんはいます。もしもイベルメクチンに劇的な効果があるのなら、有意差が出るはずです。